【掌編】日常の中の非日常〜あやかし編〜

薄暮

スマホ片手に靴底をこするように歩く。
すり減るから止めてくれと言われるけど、今日ばっかりはだるくてしっかり歩こうなんて思えない。

「ッチ、コイツもダメかよ」

なんだか今日は良くないことばかり起きた。
朝から目覚ましのアラームが鳴らないし、貸した教科書には落書きされてるし。
階段踏み外して転げ落ちそうになるし。

しまいには担任にたっぷり宿題出されるし。
まあ、これは俺だけじゃねぇけど。

でもそんな気分の良くない日だったから、遊びに出てムシャクシャした気分を晴らしたかった。
なのにそんな日に限って遊び相手がつかまらない。

日も暮れて、空は薄く明かりが残っている程度。
暮れそうで暮れない。
こんな時間になったら遊ぶ気も失せてきて……。

俺はため息をつき、いつもと違う道を選んだ。
真っ直ぐ帰る気も起きなくて、そのままズルズルと靴底をアスファルトにこすっていく。

そしたら、見たこともないキレイな子を見かけたんだ。
たまには回り道してみるもんだな。
あんな美人、なかなか見ない。

前を歩く彼女がスイ、と横の林に消える。
慌てて追いかけると、赤い鳥居があった。
その先にさっきのキレイな子の姿は見えなかったけど、こっちに進んだのは確かだ。

「名前くらいは聞いときたいよな」

口端を上げて笑った俺は、興味本位でキレイな子が消えた鳥居をくぐった。
< 5 / 16 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop