奴隷拷問が趣味の公爵令嬢を殺ってしまったので変身魔法で成りすますことにしました
【10】拷問が始まりました
「ちょ、ちょっとストップ! あたしには、あんたが何を言ってるのか全く理解できないんだけど!」
そりゃそうだ。困惑するのも無理はない。
あたしがレミーゼの立場だとしても、同じように戸惑っていることだろう。
「理解できないのは仕方ありません。何故ならあたしとレミーゼ様は住む世界が違うのですから」
「は……はあ? 住む世界が違う……? なにそれ、身分が違うから理解できないとでも言いたいわけ?」
「違います。住む世界が違うというのは、文字通り世界が異なるということです」
「だからそれが分かんないって言ってんのよ!」
声を荒げ、レミーゼがあたしを睨み付ける。
「……言いなさい。あんたが知ってること、今ここで全部話しなさい……!」
「畏まりました」
魔力椅子に座らされたまま、あたしは自分の生い立ちから【ラビリンス】で遊ぶようになるまでの過程を、一つずつしっかりと説明していく。
でも、この世界のレミーゼが納得する答えなど初めからない。
時間が経てば経つほど、レミーゼの表情は険しくなっていく。
「……もういい」
「よろしいのですか? まだまだありますが……」
「もういい! それ以上言わなくていい!」
痺れを切らしたレミーゼが口を挟む。
気付いたときには、レミーゼを置いてきぼりにしていた。
「……どうやら【隷属】のかかり具合が中途半端だったみたいね」
レミーゼはあたしの説明を無視し、【隷属】のせいにした。
もちろん、そんなことはないんだけど、認めたくないのかもしれない。
「いいえ、【隷属】でしたら確かにかかっています」
「黙れ! かかってるわけないでしょ!」
「いいえ、かかっています」
「意味不明なことばっかり言ってるくせに! かかってるはずがないのよ!」
押し問答を続けていると、我慢の限界が来てしまったのだろう。
憤怒の形相のレミーゼが、杖の先を魔力椅子に当てて魔力を送り込んできた。
すると次の瞬間、椅子全体に魔力で作られた疑似電気が駆け巡る。それは苦痛としてあたしに襲い掛かってきた。
「あああっ!」
い、痛い……。これが魔力椅子の威力なのか……。
他の拷問器具よりもマシだと思っていたけど、これは痛すぎる……!
この地下室でレミーゼに拷問される奴隷たちは、今みたいな苦痛を毎日のように与えられていたのだろう。【隷属】にかけられて、逃げ場もなく……ただただ従って……。
「……う、うぅ」
たとえ【ラビリンス】の設定だとしても、実際に拷問されてみると、よく分かる。
レミーゼは、聖女とは名ばかりのサディストだ……。
ダメだ。どうにかして【隷属】を解除しなければならない。
もし、このまま魔力椅子で拷問を受け続けることになれば、その先にあるのは……死だ。
「ふ、ふふっ! ざまあみなさい……! これで少しはあんたの減らず口も減るでしょ!」
焦るあたしと同様に、どうやらレミーゼもギリギリのところに立っていたらしい。訳の分からないことを延々と言われて限界が近かったのだ。
「ほらっ、もう一回!」
「ぐあっ、あああっ」
レミーゼの魔力が、再び椅子に流れ込む。
するとさっきと同じように、あたしの体に刺激が襲い来る。
「どう? 痛い? 痛いでしょう? アハハッ、これがあたしの趣味! 大好きなこと! 拷問! 奴隷拷問! あんたみたいなゴミクズを! 居なくなっても死んでも誰も気づかない誰も騒がない誰も心配しないような正真正銘のゴミクズを! あたし専用の奴隷にして引き取ってあげて玩具代わりに遊んであげるの! ふっ、ふふっ、最高……! 最高でしょ! ねえっ、あんたもそう思うわよね! ほらほら答えなさいよ!」
「……い、いいえ。そうは思いません……」
「え~、思わないの? どうして? どうして思ってくれないの?」
ニヤニヤと意地悪な笑みを口元に張り付けたまま、レミーゼが問いかけてくる。
「い、痛いから……です」
「せーかい! その通り! そうよねっ! だって痛いもんねっ? 分かる、分かるわ~! だってあたしも嫌だもん! そんな椅子に座って拷問されて恥をさらすなんて! たとえ死んでもごめんよね!」
口の回りが早いものだ。
自分の趣味を思う存分に満喫しているのだから、それも当然か。
「ねえ、トロア? 痛くて耐えられない? もう止めてほしい?」
「……はい」
「ププッ、ざーんねーん! やめてあげなーい! だってあんたはあたしに拷問されるために産まれてきたんだから!」
「――うぐっ」
何度も、何度も、魔力を流される。
その度にあたしは苦痛の声を上げ、逆にレミーゼは狂気的な声を上げる。
そして、そんな声も掠れてきたころ……。
「……はあ~、すっきりした」
レミーゼはようやく満足したのか、杖先を椅子から離した。
「あんたって確か、十二歳だっけ? 長女が十八で、真ん中が十五? うーん……上の二人なら、まだまだ耐えてくれると思うけど、あんたは今にも死にそうなツラしてるわね」
そりゃそうだ。こんなに拷問を受けて元気でいられるはずがない。
「もしもーし? ……返事もできないのねえ? ふうん……まあ、これなら安心してかけ直せるか」
「……」
かけ直す。
レミーゼは、確かにそう言った。
「一旦、あんたにかけた【隷属】を解くわ。そしてもう一度かけ直してあげる。それももっと強力なやつをね。だからあんた、拒否しても無駄よ? 今度こそ本当のことを話してもらうから、覚悟しておくことね」
拷問続きで喉が渇いたのだろう。
床に置いてある水筒のような入れ物を手に取り、レミーゼは勢いよく飲み始める。
「さあ、それじゃあ……」
喉を潤し、口元を袖で拭う。公爵令嬢にあるまじき姿だが、今ここにそれを咎める者はいない。この空間ではレミーゼが主であり、絶対的な権力者なのだから。
でも、それももう終わりだ。
「――【隷属/解除】。続けて、【隷属/強制】」
レミーゼは杖先をあたしに向けると、【隷属】を解除した。
それからすぐ、間髪入れずに【隷属/強制】を発動する。
その一瞬の隙を、あたしは見逃さなかった。
「……【反射/永続】」
「ッ!?」
眩い光が地下室全体を照らし出す。
それは澱んでいた空気を全て洗い流すかのような威力だ。
ギリギリ……。
本当に、ギリギリだった。
レミーゼが発動した【隷属/強制】は、対象となる相手を強制的に【隷属】化する闇魔法で、一度目に使用した【隷属/許可】のように許可を取る必要がない。
――故に、成功した。
「あ、あんた、あたしに何を……!」
「うるさいなぁ……ちょっと口閉じてよ」
「う、むぐっ」
これは賭けだ。
トロアの体を借りた状態で、あたしが魔法を使えるか否かの。
そしてあたしは、その賭けに勝った。
魔力椅子に座って縛られたまま、あたしはゆっくりと深呼吸する。
地下室の空気は、やっぱり美味しくない。だけどようやく一息吐くことができる。
「とりあえずさ……これ、解いて」
あたしの命令に従って、レミーゼが拘束を解く。
これで名実ともに自由を手に入れたことになる。
「……あぁ、なんか言いたそうだけど、なに?」
「っ、くっ、……あんた、説明しなさいよ! どうしてあたしがあんたの命令を聞いてるのよ! 今すぐ答えなさい! これは命令よ!」
「はぁ……やっぱり口閉じてて」
「むぐっ」
口を開けばうるさく喚く。
まあ、それも仕方のないことだ。だって主従関係が逆転したのだから。
「レミーゼさ、本当に気付いてないの? 【ラビリンス】のボスキャラなのに? ……って、無理もないよね。だって、レミーゼは【ラビリンス】に登場するボスキャラの中で最弱だもんね」
理解の範疇を超えているに違いない。
レミーゼは、現実を受け入れがたいといった表情を浮かべている。
「レミーゼ。あんたのご主人様は、このあたし」
だけどね、これが現実なんだ。
だからあたしは、レミーゼと目を合わせて優しく笑いかけてあげた。
「というわけだから、今度はあたしがゆっくりとお返ししてあげる」
その台詞を耳にしたレミーゼは、血の気が引いたような顔で、ただただ固まっていた。
そりゃそうだ。困惑するのも無理はない。
あたしがレミーゼの立場だとしても、同じように戸惑っていることだろう。
「理解できないのは仕方ありません。何故ならあたしとレミーゼ様は住む世界が違うのですから」
「は……はあ? 住む世界が違う……? なにそれ、身分が違うから理解できないとでも言いたいわけ?」
「違います。住む世界が違うというのは、文字通り世界が異なるということです」
「だからそれが分かんないって言ってんのよ!」
声を荒げ、レミーゼがあたしを睨み付ける。
「……言いなさい。あんたが知ってること、今ここで全部話しなさい……!」
「畏まりました」
魔力椅子に座らされたまま、あたしは自分の生い立ちから【ラビリンス】で遊ぶようになるまでの過程を、一つずつしっかりと説明していく。
でも、この世界のレミーゼが納得する答えなど初めからない。
時間が経てば経つほど、レミーゼの表情は険しくなっていく。
「……もういい」
「よろしいのですか? まだまだありますが……」
「もういい! それ以上言わなくていい!」
痺れを切らしたレミーゼが口を挟む。
気付いたときには、レミーゼを置いてきぼりにしていた。
「……どうやら【隷属】のかかり具合が中途半端だったみたいね」
レミーゼはあたしの説明を無視し、【隷属】のせいにした。
もちろん、そんなことはないんだけど、認めたくないのかもしれない。
「いいえ、【隷属】でしたら確かにかかっています」
「黙れ! かかってるわけないでしょ!」
「いいえ、かかっています」
「意味不明なことばっかり言ってるくせに! かかってるはずがないのよ!」
押し問答を続けていると、我慢の限界が来てしまったのだろう。
憤怒の形相のレミーゼが、杖の先を魔力椅子に当てて魔力を送り込んできた。
すると次の瞬間、椅子全体に魔力で作られた疑似電気が駆け巡る。それは苦痛としてあたしに襲い掛かってきた。
「あああっ!」
い、痛い……。これが魔力椅子の威力なのか……。
他の拷問器具よりもマシだと思っていたけど、これは痛すぎる……!
この地下室でレミーゼに拷問される奴隷たちは、今みたいな苦痛を毎日のように与えられていたのだろう。【隷属】にかけられて、逃げ場もなく……ただただ従って……。
「……う、うぅ」
たとえ【ラビリンス】の設定だとしても、実際に拷問されてみると、よく分かる。
レミーゼは、聖女とは名ばかりのサディストだ……。
ダメだ。どうにかして【隷属】を解除しなければならない。
もし、このまま魔力椅子で拷問を受け続けることになれば、その先にあるのは……死だ。
「ふ、ふふっ! ざまあみなさい……! これで少しはあんたの減らず口も減るでしょ!」
焦るあたしと同様に、どうやらレミーゼもギリギリのところに立っていたらしい。訳の分からないことを延々と言われて限界が近かったのだ。
「ほらっ、もう一回!」
「ぐあっ、あああっ」
レミーゼの魔力が、再び椅子に流れ込む。
するとさっきと同じように、あたしの体に刺激が襲い来る。
「どう? 痛い? 痛いでしょう? アハハッ、これがあたしの趣味! 大好きなこと! 拷問! 奴隷拷問! あんたみたいなゴミクズを! 居なくなっても死んでも誰も気づかない誰も騒がない誰も心配しないような正真正銘のゴミクズを! あたし専用の奴隷にして引き取ってあげて玩具代わりに遊んであげるの! ふっ、ふふっ、最高……! 最高でしょ! ねえっ、あんたもそう思うわよね! ほらほら答えなさいよ!」
「……い、いいえ。そうは思いません……」
「え~、思わないの? どうして? どうして思ってくれないの?」
ニヤニヤと意地悪な笑みを口元に張り付けたまま、レミーゼが問いかけてくる。
「い、痛いから……です」
「せーかい! その通り! そうよねっ! だって痛いもんねっ? 分かる、分かるわ~! だってあたしも嫌だもん! そんな椅子に座って拷問されて恥をさらすなんて! たとえ死んでもごめんよね!」
口の回りが早いものだ。
自分の趣味を思う存分に満喫しているのだから、それも当然か。
「ねえ、トロア? 痛くて耐えられない? もう止めてほしい?」
「……はい」
「ププッ、ざーんねーん! やめてあげなーい! だってあんたはあたしに拷問されるために産まれてきたんだから!」
「――うぐっ」
何度も、何度も、魔力を流される。
その度にあたしは苦痛の声を上げ、逆にレミーゼは狂気的な声を上げる。
そして、そんな声も掠れてきたころ……。
「……はあ~、すっきりした」
レミーゼはようやく満足したのか、杖先を椅子から離した。
「あんたって確か、十二歳だっけ? 長女が十八で、真ん中が十五? うーん……上の二人なら、まだまだ耐えてくれると思うけど、あんたは今にも死にそうなツラしてるわね」
そりゃそうだ。こんなに拷問を受けて元気でいられるはずがない。
「もしもーし? ……返事もできないのねえ? ふうん……まあ、これなら安心してかけ直せるか」
「……」
かけ直す。
レミーゼは、確かにそう言った。
「一旦、あんたにかけた【隷属】を解くわ。そしてもう一度かけ直してあげる。それももっと強力なやつをね。だからあんた、拒否しても無駄よ? 今度こそ本当のことを話してもらうから、覚悟しておくことね」
拷問続きで喉が渇いたのだろう。
床に置いてある水筒のような入れ物を手に取り、レミーゼは勢いよく飲み始める。
「さあ、それじゃあ……」
喉を潤し、口元を袖で拭う。公爵令嬢にあるまじき姿だが、今ここにそれを咎める者はいない。この空間ではレミーゼが主であり、絶対的な権力者なのだから。
でも、それももう終わりだ。
「――【隷属/解除】。続けて、【隷属/強制】」
レミーゼは杖先をあたしに向けると、【隷属】を解除した。
それからすぐ、間髪入れずに【隷属/強制】を発動する。
その一瞬の隙を、あたしは見逃さなかった。
「……【反射/永続】」
「ッ!?」
眩い光が地下室全体を照らし出す。
それは澱んでいた空気を全て洗い流すかのような威力だ。
ギリギリ……。
本当に、ギリギリだった。
レミーゼが発動した【隷属/強制】は、対象となる相手を強制的に【隷属】化する闇魔法で、一度目に使用した【隷属/許可】のように許可を取る必要がない。
――故に、成功した。
「あ、あんた、あたしに何を……!」
「うるさいなぁ……ちょっと口閉じてよ」
「う、むぐっ」
これは賭けだ。
トロアの体を借りた状態で、あたしが魔法を使えるか否かの。
そしてあたしは、その賭けに勝った。
魔力椅子に座って縛られたまま、あたしはゆっくりと深呼吸する。
地下室の空気は、やっぱり美味しくない。だけどようやく一息吐くことができる。
「とりあえずさ……これ、解いて」
あたしの命令に従って、レミーゼが拘束を解く。
これで名実ともに自由を手に入れたことになる。
「……あぁ、なんか言いたそうだけど、なに?」
「っ、くっ、……あんた、説明しなさいよ! どうしてあたしがあんたの命令を聞いてるのよ! 今すぐ答えなさい! これは命令よ!」
「はぁ……やっぱり口閉じてて」
「むぐっ」
口を開けばうるさく喚く。
まあ、それも仕方のないことだ。だって主従関係が逆転したのだから。
「レミーゼさ、本当に気付いてないの? 【ラビリンス】のボスキャラなのに? ……って、無理もないよね。だって、レミーゼは【ラビリンス】に登場するボスキャラの中で最弱だもんね」
理解の範疇を超えているに違いない。
レミーゼは、現実を受け入れがたいといった表情を浮かべている。
「レミーゼ。あんたのご主人様は、このあたし」
だけどね、これが現実なんだ。
だからあたしは、レミーゼと目を合わせて優しく笑いかけてあげた。
「というわけだから、今度はあたしがゆっくりとお返ししてあげる」
その台詞を耳にしたレミーゼは、血の気が引いたような顔で、ただただ固まっていた。