奴隷拷問が趣味の公爵令嬢を殺ってしまったので変身魔法で成りすますことにしました

【14】演じなさい、レミーゼ・ローテルハルクを

 地下室とはいえ、レミーゼが発動した【稲妻】の威力とその音は、当然というべきか屋敷の外まで響いていた。

 その音を耳にしたテイリーは、レミーゼの身に、何か不測の事態が起きたのかもしれないと考えたのだろう。屋敷の扉を叩いて返事を待つ姿が目に浮かぶようだ……。

 レミーゼの直属兵であるテイリーは、【ラビリンス】における聖女戦争イベントにおいて、プレイヤーの前に最強の敵として立ちはだかった。
 魔法剣士としての腕を存分に発揮し、王国兵を次々と屠る恐ろしき姿には、数多くのプレイヤーが目を奪われた。

 そんな人に、もしレミーゼの死体を見られたりでもすれば、あたしは問答無用で攻撃されるだろう。というか、殺される。

 じゃあ、どうする……?
 逃げ場がない以上、テイリーも……彼もレミーゼと同じように……。

「ころ……す?」

 ……いや、いやいやいや!
 あたしはいったい何を考えているんだ!

 ここは【ラビリンス】の中じゃない。地球とは違う別の現実世界だ!
 人を殺していいはずがない!

 一人殺してしまったのだから、もう一人殺したところで、大した違いはない。
 そう考えてテイリーをこの手にかけてしまったら、それこそただの人殺し……罪人に成り下がってしまうだろう。

 この世界で、レミーゼは確かに生きていたし、それはテイリーだって同じことだ。
 こんな状況で上手く思考することができないけど、あたしの中の考えをまとめる必要がある。そうしなければ、あたし自身が壊れてしまうから。

 とにかく今は、どうすればテイリーと一戦交えることなく、この場を乗り切ることができるのか。それだけを考えるんだ。

 考えろ、考えろあたし……何か妙案が浮かぶまで考え続けろ、あたし……!

「……ぁ」

 一つ……。
 一つだけ、ある。

 攻撃魔法でレミーゼの屋敷を丸ごと破壊して逃げ出すようなことをせず、レミーゼの死を隠し通すことのできる夢のような魔法が……一つだけ、あった。

「……もう、これしかない」

 それは、【ラビリンス】の世界でもあたしだけに許された特別な魔法。
 他のプレイヤーが習得することのできない、あたしだけの固有魔法……。

「あたしが……あたしがレミーゼになって、誤魔化すしか……!」

 再度、あたしは床に横たわる人物に目を向ける。
 そこにあるのは、【稲妻】で丸焦げになったレミーゼの亡骸だ……。

「……ごめんなさい、貴女を殺すつもりはなかったの」

 でも、殺らなければ殺られていた。
 そして今、それをやらなければならない。

 だからあたしは、この世界で目覚めてから三つ目となる魔法を発動する。

「固有魔法――【変身/対象:レミーゼ・ローテルハルク】」

 己の身に、魔力が駆け巡るのを感じた。
 それから僅か数秒のこと……。

「……もう、後戻りはできない」

 死体となったレミーゼを見下ろすのは、あたし。
 但し、姿形がレミーゼとそっくりになったあたしだ。

 これが、固有魔法【変身】の効果だ。
 対象相手の姿形そっくりに変身することが可能となる。

「演じるのよ……あたしが、拷問令嬢レミーゼ・ローテルハルクを……!!」
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