奴隷拷問が趣味の公爵令嬢を殺ってしまったので変身魔法で成りすますことにしました
【19】正真正銘聖女様
アルバータと顔を合わせてから一緒に朝食を取るのかと思っていたけど、あたしの分だけ先に運ばれてきた。
……これ、あたしだけ勝手に食べてもいいのかな。
とここで、お手伝いさん? 侍女? それとも執事見習い? 女性が一人、レバスチャンの横について何事かを耳打ちしている。
まさか、あたしがレミーゼじゃないことが早々にバレてしまったとか……。
「……お嬢様、よろしいですかな」
「な、なによ!」
レバスチャンがあたしを呼ぶ。思わずビクッと肩を揺らしてしまった。
いざというときは、ここから全力で逃げ出さないと……。
「旦那様ですが、急用で王都へと向かわれたようです」
「お、……王都に? あ、ああ……そう? そうなんだ? へー、ふーん」
……危なかった。
慌てすぎて逃げ出すところだった。
どうやら、アルバータは食事の席に着くことができないらしい。
実の親子であれば、あたしが偽者であることを一瞬で見抜いてしまうかも……と内心冷や冷やしていたので、ほっとした。
「お父様ったら、あたしとの朝食をすっぽかして王都に行くなんて酷いわ。それってどんな用事なのよ」
ちょっとだけ、余裕が出たからかもしれない。
レミーゼが言いそうな台詞を口にしてみた。
すると、レバスチャンは急に渋い顔を作り込み、重い口を動かす。
「……件の聖女、フレア・レ・コールベル氏が、聖地巡礼の旅に出るとのことです。その一つ目の巡礼先がローテルハルク領に決定したらしく、国王から直々に呼び出しを受けたようですな」
「ふーん、聖地巡礼ねえ……お父様も大変だこと」
ローテルハルク領とロンド王国は目と鼻の先だけど、徒歩なら半日はかかる距離だ。
つまり、アルバータは明日になるまで帰ってこないことが確定した。
よし、これはあたしにとって良い傾向だ。運が向いてきた気がする。
「……」
「……」
「……え? 何よ二人とも、間の抜けたような顔しちゃって」
気が付くと、レバスチャンとテイリーが目を丸くしてあたしの方を見ていた。
それどころか、周りにいたお手伝いさんたちも、同じ反応をしている。
何この空気?
あたし、変なこと言ったかな?
「いえ、あの……レミーゼ様が、あの女の名前を聞いても表情一つ変えなかったもので、つい……」
「……あ」
しまった。これはやらかしてしまったかもしれない。
テイリーの言うあの女とは、フレアのことだ。
フレアとは、ロンド王国から聖女の称号を授かった正真正銘の聖女様である。
王国公認の聖女様であるフレアが、聖地巡礼の旅に出るというのは、【ラビリンス】のメインシナリオにも組み込まれていた。
【ラビリンス】のプレイヤーとして遊んでいたときのあたしは、それこそプレイヤー側の人間だったから、気にも留めていなかった。でも、今のあたしはプレイヤーではなく、レミーゼ・ローテルハルクだ。
だとすれば、話は百八十度変わってくる。
レミーゼとフレアは、ライバル関係にある。
まあ、正確にはレミーゼが勝手にライバル意識を持っているだけなんだけど。
ただ、だからこそフレアの名を出しても動じないあたしの姿を見て、レバスチャンとテイリーは驚いてしまったのだろう。
「それは……アレね。ほら、いちいちあんな女のために、あたしがイラつくのって時間の無駄でしょ? だから気にしないことにしたの」
「そ、そうだったんですね……」
「……お嬢様、少しは大人になられましたな」
「う、うるさいわね!」
レバスチャンは一言多いのが玉に瑕だ。
とはいえ、無事に誤魔化すことができたようで一安心だ。
「……はぁ」
それにしても疲れた。
食事を取る前にこんなに疲れることになるとは思わなかった。
姿形から他人を演じるのって、本当に難しい。
今思うことは、一刻も早く、この成り済まし生活から抜け出したい。それだけだ。
……これ、あたしだけ勝手に食べてもいいのかな。
とここで、お手伝いさん? 侍女? それとも執事見習い? 女性が一人、レバスチャンの横について何事かを耳打ちしている。
まさか、あたしがレミーゼじゃないことが早々にバレてしまったとか……。
「……お嬢様、よろしいですかな」
「な、なによ!」
レバスチャンがあたしを呼ぶ。思わずビクッと肩を揺らしてしまった。
いざというときは、ここから全力で逃げ出さないと……。
「旦那様ですが、急用で王都へと向かわれたようです」
「お、……王都に? あ、ああ……そう? そうなんだ? へー、ふーん」
……危なかった。
慌てすぎて逃げ出すところだった。
どうやら、アルバータは食事の席に着くことができないらしい。
実の親子であれば、あたしが偽者であることを一瞬で見抜いてしまうかも……と内心冷や冷やしていたので、ほっとした。
「お父様ったら、あたしとの朝食をすっぽかして王都に行くなんて酷いわ。それってどんな用事なのよ」
ちょっとだけ、余裕が出たからかもしれない。
レミーゼが言いそうな台詞を口にしてみた。
すると、レバスチャンは急に渋い顔を作り込み、重い口を動かす。
「……件の聖女、フレア・レ・コールベル氏が、聖地巡礼の旅に出るとのことです。その一つ目の巡礼先がローテルハルク領に決定したらしく、国王から直々に呼び出しを受けたようですな」
「ふーん、聖地巡礼ねえ……お父様も大変だこと」
ローテルハルク領とロンド王国は目と鼻の先だけど、徒歩なら半日はかかる距離だ。
つまり、アルバータは明日になるまで帰ってこないことが確定した。
よし、これはあたしにとって良い傾向だ。運が向いてきた気がする。
「……」
「……」
「……え? 何よ二人とも、間の抜けたような顔しちゃって」
気が付くと、レバスチャンとテイリーが目を丸くしてあたしの方を見ていた。
それどころか、周りにいたお手伝いさんたちも、同じ反応をしている。
何この空気?
あたし、変なこと言ったかな?
「いえ、あの……レミーゼ様が、あの女の名前を聞いても表情一つ変えなかったもので、つい……」
「……あ」
しまった。これはやらかしてしまったかもしれない。
テイリーの言うあの女とは、フレアのことだ。
フレアとは、ロンド王国から聖女の称号を授かった正真正銘の聖女様である。
王国公認の聖女様であるフレアが、聖地巡礼の旅に出るというのは、【ラビリンス】のメインシナリオにも組み込まれていた。
【ラビリンス】のプレイヤーとして遊んでいたときのあたしは、それこそプレイヤー側の人間だったから、気にも留めていなかった。でも、今のあたしはプレイヤーではなく、レミーゼ・ローテルハルクだ。
だとすれば、話は百八十度変わってくる。
レミーゼとフレアは、ライバル関係にある。
まあ、正確にはレミーゼが勝手にライバル意識を持っているだけなんだけど。
ただ、だからこそフレアの名を出しても動じないあたしの姿を見て、レバスチャンとテイリーは驚いてしまったのだろう。
「それは……アレね。ほら、いちいちあんな女のために、あたしがイラつくのって時間の無駄でしょ? だから気にしないことにしたの」
「そ、そうだったんですね……」
「……お嬢様、少しは大人になられましたな」
「う、うるさいわね!」
レバスチャンは一言多いのが玉に瑕だ。
とはいえ、無事に誤魔化すことができたようで一安心だ。
「……はぁ」
それにしても疲れた。
食事を取る前にこんなに疲れることになるとは思わなかった。
姿形から他人を演じるのって、本当に難しい。
今思うことは、一刻も早く、この成り済まし生活から抜け出したい。それだけだ。