奴隷拷問が趣味の公爵令嬢を殺ってしまったので変身魔法で成りすますことにしました
【26】拒否権はないから
ローテルハルク城から馬車を走らせること二時間、遠くまで続く森林地帯が顔を見せる。その中を迷わず進んで行くと、やがて名も無き小さな村に到着した。
元々は、この場所まで飛行魔法を使って一気に飛んでいこうと考えていた。
でも、トロアに転生してからまだ一度も発動したことのない魔法だ。
もし、空を飛んで移動している最中に効果が切れてしまったら……。
そう思うと恐ろしくて、とてもじゃないけど使う気にはなれなかった。
暇を見つけたときに飛ぶ練習をして、その感覚に慣れる必要があるだろう。
というわけで、今回は陸を行くことにした。
「ここが例の村ね……」
ゲルモが拠点にしているのは、この村で間違いないだろう。
馬車に揺られて村に到着すると、あたしは御者にここで待機しておくように命じた。
復路の足も必要だからね。
「――レミーゼ様? レミーゼ様ではございませんか!」
とここで、中年の男性があたしの姿に気付いて声をかけてきた。
「なんと! 村までお越しいただけるとは……! おい、みんな! レミーゼ様が来てくださったぞ!」
レミーゼがわざわざ会いに来てくれたと勘違いしているのだろう。
その男性は村の人たちに声をかける。
すると、ぞろぞろと村の入口に集まってきた。
「結構、人が居るのね」
「へい! 人手は幾らあっても困りませんからね!」
……人手? よく分からないけど、どうやら多いに越したことはないようだ。
「ところで、ゲルモは……」
「へい? 何でしょうか?」
ああ、この馴れ馴れしい男がゲルモ本人だったのか。
パッと見た感じだと、村の人たちとの関係は良好そうだ。
「地下牢から連れ出した罪人が居るでしょう? あの二人はどこにいるの」
「はて、地下牢の? ……ああ、お城のでございますね! はいはい、もちろんおりますとも! どうぞこちらへ!」
アンとドゥがこの村に居るのか訊ねると、ゲルモは何の疑問も持たずに村の奥へと案内してくれた。
連れて行かれた場所には、大きくて頑丈そうな荷馬車があった。
「あ奴らでしたら、他の罪人とまとめてこの中に押し込んでおります!」
そう言ってゲルモは幌の中を見せる。そこには数名ほどが閉じ込められていた。
馬車の中には鉄格子が嵌められていて、自由に外へと出ることのできない造りになっているようだ。
「ふうん、馬車が牢になっているのね? それにしても随分と物騒な見た目をしているわね……」
「へい! 私が運ぶ罪人どもは気性が荒いですからね! もしもに備えて、万全を期しております!」
大事な商品に脱走されたら困るもんね。
そんなことになれば、きっとレミーゼにどやされるはずだ。
……まあ、そのレミーゼも、もう居ないんだけど。
罪人たちのほとんどは気性が荒く、隷属魔法にかけることもままならないらしい。それは地下牢でオットンから聞いた話と相違なかった。
そのままの状態でも、出荷することはできる。
しかし、万が一にもレミーゼの身に何かあったら大変だ。出荷した罪人がレミーゼに怪我をさせたとなれば、取り返しがつかないことになるだろう。
だからこそ、そういった類の罪人たちを、ゲルモは回収、再回収し、己の手で処理するようにしていた。
「つまりアレね? あたしの手に負えない罪人は、貴方たちが話し合った上で、勝手に処分する決まりになってたってわけね?」
「へい、その通りです! ……ん? レミーゼ様もご存じのはずですが?」
「ええ、もちろん知っているわ。レミーゼ本人はね」
鉄格子の向こう側……罪人の中には、アンとドゥの姿があった。
二人はレミーゼが助けに来てくれたと勘違いしたのだろう。目が合うと一瞬喜ぶような素振りを見せた。でも、あたしとゲルモの話す内容を耳にして、そうではないことを理解して表情が暗くなる。
そんな顔はしないで。すぐにそこから出してあげるから。
「――【開錠】」
あたしは【開錠】を発動して鉄格子の鍵を開ける。
それを見たゲルモは、驚いた様子で声を上げた。
「あ? ……ちょ、レミーゼ様? 何故、鍵を……!」
「悪いけど、あんたとの取引は今日このときを以っておしまいにするわ」
「……は? はっ? いやいや、何故でございますか! これはレミーゼ様のために行っていることなんですよ? だというのに取引を終了するなど――」
「【拘束/土縄】」
「うぐあっ!」
抗議するゲルモを対象に、あたしは一切躊躇うことなく、拘束魔法を放った。
すると、ゲルモは地面から伸びた土縄に手足を拘束されてしまい、這いつくばる形になる。その姿を見下ろしながら、あたしは一言、淡々と口にする。
「拒否権はないから」
元々は、この場所まで飛行魔法を使って一気に飛んでいこうと考えていた。
でも、トロアに転生してからまだ一度も発動したことのない魔法だ。
もし、空を飛んで移動している最中に効果が切れてしまったら……。
そう思うと恐ろしくて、とてもじゃないけど使う気にはなれなかった。
暇を見つけたときに飛ぶ練習をして、その感覚に慣れる必要があるだろう。
というわけで、今回は陸を行くことにした。
「ここが例の村ね……」
ゲルモが拠点にしているのは、この村で間違いないだろう。
馬車に揺られて村に到着すると、あたしは御者にここで待機しておくように命じた。
復路の足も必要だからね。
「――レミーゼ様? レミーゼ様ではございませんか!」
とここで、中年の男性があたしの姿に気付いて声をかけてきた。
「なんと! 村までお越しいただけるとは……! おい、みんな! レミーゼ様が来てくださったぞ!」
レミーゼがわざわざ会いに来てくれたと勘違いしているのだろう。
その男性は村の人たちに声をかける。
すると、ぞろぞろと村の入口に集まってきた。
「結構、人が居るのね」
「へい! 人手は幾らあっても困りませんからね!」
……人手? よく分からないけど、どうやら多いに越したことはないようだ。
「ところで、ゲルモは……」
「へい? 何でしょうか?」
ああ、この馴れ馴れしい男がゲルモ本人だったのか。
パッと見た感じだと、村の人たちとの関係は良好そうだ。
「地下牢から連れ出した罪人が居るでしょう? あの二人はどこにいるの」
「はて、地下牢の? ……ああ、お城のでございますね! はいはい、もちろんおりますとも! どうぞこちらへ!」
アンとドゥがこの村に居るのか訊ねると、ゲルモは何の疑問も持たずに村の奥へと案内してくれた。
連れて行かれた場所には、大きくて頑丈そうな荷馬車があった。
「あ奴らでしたら、他の罪人とまとめてこの中に押し込んでおります!」
そう言ってゲルモは幌の中を見せる。そこには数名ほどが閉じ込められていた。
馬車の中には鉄格子が嵌められていて、自由に外へと出ることのできない造りになっているようだ。
「ふうん、馬車が牢になっているのね? それにしても随分と物騒な見た目をしているわね……」
「へい! 私が運ぶ罪人どもは気性が荒いですからね! もしもに備えて、万全を期しております!」
大事な商品に脱走されたら困るもんね。
そんなことになれば、きっとレミーゼにどやされるはずだ。
……まあ、そのレミーゼも、もう居ないんだけど。
罪人たちのほとんどは気性が荒く、隷属魔法にかけることもままならないらしい。それは地下牢でオットンから聞いた話と相違なかった。
そのままの状態でも、出荷することはできる。
しかし、万が一にもレミーゼの身に何かあったら大変だ。出荷した罪人がレミーゼに怪我をさせたとなれば、取り返しがつかないことになるだろう。
だからこそ、そういった類の罪人たちを、ゲルモは回収、再回収し、己の手で処理するようにしていた。
「つまりアレね? あたしの手に負えない罪人は、貴方たちが話し合った上で、勝手に処分する決まりになってたってわけね?」
「へい、その通りです! ……ん? レミーゼ様もご存じのはずですが?」
「ええ、もちろん知っているわ。レミーゼ本人はね」
鉄格子の向こう側……罪人の中には、アンとドゥの姿があった。
二人はレミーゼが助けに来てくれたと勘違いしたのだろう。目が合うと一瞬喜ぶような素振りを見せた。でも、あたしとゲルモの話す内容を耳にして、そうではないことを理解して表情が暗くなる。
そんな顔はしないで。すぐにそこから出してあげるから。
「――【開錠】」
あたしは【開錠】を発動して鉄格子の鍵を開ける。
それを見たゲルモは、驚いた様子で声を上げた。
「あ? ……ちょ、レミーゼ様? 何故、鍵を……!」
「悪いけど、あんたとの取引は今日このときを以っておしまいにするわ」
「……は? はっ? いやいや、何故でございますか! これはレミーゼ様のために行っていることなんですよ? だというのに取引を終了するなど――」
「【拘束/土縄】」
「うぐあっ!」
抗議するゲルモを対象に、あたしは一切躊躇うことなく、拘束魔法を放った。
すると、ゲルモは地面から伸びた土縄に手足を拘束されてしまい、這いつくばる形になる。その姿を見下ろしながら、あたしは一言、淡々と口にする。
「拒否権はないから」