奴隷拷問が趣味の公爵令嬢を殺ってしまったので変身魔法で成りすますことにしました

【27】どうも、噂の聖女様です

「【拘束/土面】」
「うぅっ、むぐうっ!」

 次に発動した魔法は【拘束/土面】。これは対象のプレイヤーの顔に土の仮面を張り付けるといったものになる。
 この世界では、プレイヤーではなくあたしが指定した人物になる。その相手はもちろん、ゲルモだ。

 土でできた縄で、地面にうつ伏せの状態で拘束されていたゲルモは、土の仮面をかぶることで視界も遮られることになった。

「……ど、どうして……?」

 とここで、聞き覚えのある声が耳に届く。
 振り返ってみると、馬車の牢から出た二人があたしを見ていた。

「遅くなってごめんなさいね。ここに来るまで少し時間がかかってしまったわ」

 アンとドゥに対し、頭を下げて謝罪する。
 その姿を見た二人は、あまりの衝撃に固まっている。それは村の人たちも同様だ。

 公爵令嬢であり聖女でもあるレミーゼが、自ら頭を下げたのだから、当然と言えば当然だ。まあ、中身はあたしですけど。

 他の罪人たちもぞろぞろと降りてくる。なんだか余計な人たちもまとめて解放しちゃったけど……この村、大丈夫かな? 段々と心配になってきた。

「レミーゼ……さま? どうして、わたしたちを助けてくれたんですか?」

 やはり疑問に感じているのだろう。
 我慢できずに、アンが訊ねてきた。

「聖女が人を助けるのに理由なんて要ると思う?」
「――ッ!!」

 本当は理由だらけなんだけど、真実は闇の中へポイっと捨てておこう。
 それが一番あたしにとって安心で安全だ。

 ゲルモの魔の手から、二人とその他数名を救い出したあと、暫く経った。
 この村の人たちの話では、ゲルモはいつも一人で行動していたらしく、仲間はいなかったらしい。

 ただ、村人のほとんどが、ゲルモから雇われの身であることが判明した。

 仲間ではない。しかし、ゲルモが奴隷商であることを知っている。
 村に連れてきた罪人や奴隷たちの、見張りや世話を引き受けることで、この村にお金を落としてもらっていたのだ。

 その仕組みを、あたしが壊してしまった。
 このままにしておけば、この村に入るはずの固定収入がゼロになる。生活基盤が崩れてしまうだろう。

 さすがにそれは申し訳ないので、あたしは一つ提案というか取引を持ちかけることにした。それは、引き続き罪人や奴隷たちの世話をするといったものだ。

 レミーゼ直々のお願いに、村人たちはとても喜んでくれた。
 その様子を見るに、お金さえ稼ぐことができれば、たとえ雇い主が変わろうが関係ないということなのだろう。

 それから、ゲルモが住んでいた家に、アンとドゥ、ついでに他の人たちも匿うことを決めた。

「おぉ……これが噂の、ローテルハルクの聖女様……!」
「本物? 本物か? ……すげえ、あのフレア様と比べても遜色ないほどの美貌の持ち主じゃないか!」
「ああ、しかも聖女の名に相応しいお振舞い……! そしてご慈悲……ッ!!」

 罪人たちは、実際に悪事を働いていたものが大半を占める。
 しかしそんな彼らも、あたし自ら助けに来た姿を見て感激したのか、揃いも揃って心を入れ替えて真面目に生きていきます、と口にしていた。……結構単純な人たちだ。

「あ、あの……! この度は助けていただきまして、ま、誠にありがとうございました!」
「ありがとうございます!」

 その夜、アンとドゥの二人と一緒に話をする機会を設けた。
 あたしは【変身】を解いてトロアの姿を見せようかと思ったけど、正体を知ることで、二人に危険が及ぶ可能性もゼロではない。

 考えた結果、あたしは正体を明かさずにいることにした。

「気にしないでちょうだい。あたしは自分のやるべきことをやったまでだから」

 あたしが返事をすると、二人は聖女を崇めるような視線を向ける。
 この様子では恐らく、レミーゼのことをいい人だと勘違いしていることだろう。

「そ、そうだ……! あのっ、レミーゼ様! 妹は……トロアは、元気でやってますか?」

 とここで、アンが心中何よりも聞きたかったことを口にした。
 その質問は絶対に来るものだと分かっていたので、あたしは動じずに答える。

「ええ、元気よ。あたしの屋敷の掃除係として頑張っているわ」
「よかった……やっぱりレミーゼ様は聖女様だったんだ……!」
「ふふ。危険だったから今日はあたし一人でここに来たけど、次来るときはトロアも一緒に連れて来るから、楽しみにしておいてちょうだい」
「! はいっ! ありがとうございます!」

 本音は、今すぐに一目だけでも会いたいだろう。
 でも、アンとドゥは我がままを言わなかった。一度あたしに助けてもらったからか、完全に信頼しているようだ。

 ……案外騙され易いな。
 あたしとゲルモが共謀している可能性もあるんだから、もう少し疑った方がいいよ。
 と言っても、あたし的に面倒なことになるだけなので、今のままでいいけどね。

「ねえ、二人とも。もしよかったらなんだけど、貴女たち三姉妹のことを詳しく聞かせてもらえないかしら?」
「もちろんです!」
「何から話しましょうか? なんでも教えますよ!」
「うーん、そうねえ……」

 ノリノリの二人に対し、頭を悩ませる。
 まずは、あたしが転生してしまったトロアについてと、その周辺事情について教えてもらうことにしよう。

 そして、あたしは暫くの間、二人と言葉を交わすのだった。
< 29 / 66 >

この作品をシェア

pagetop