奴隷拷問が趣味の公爵令嬢を殺ってしまったので変身魔法で成りすますことにしました
【幕間】迷宮研究所
『――成道さん、二十歳。以上の八名が既に亡くなっているとのことです。……続きまして、次のニュースです。本日十九時頃、道路を横断しようとしていた年齢不詳の男性が通行中の車に跳ねられ……』
あたしは、ただ茫然とテレビのニュースを見ていた。
現段階で分かっているだけでも、八名が死亡しているとのこと。
【ラビリンス】には既にログインできない状態になっていて、このままサービスを停止する意向だと、運営会社の責任者の人が会見していた。
嘘だと言ってほしい。でも言ってくれない。
まさかあたしが【ラビリンス】から遠ざかっている間に、こんな事件が起きているとは思いもしなかった。
ニュースを見た親が【ラビリンス】の機器一式をゴミ袋に入れ始める。
何をしているのだろうと、ぼーっと見ていると、こんな危ないものは今すぐ捨てると言われた。
βテスターに選ばれてから、毎日欠かさず【ラビリンス】で遊んでいた。
それなのに、今は【ラビリンス】の世界に入ることもできない。
それは、大切な半身を奪われてしまったような感覚だった。
絶望したあたしは、大学生活どころではなくなった。
何もしたくない。何もする気が起きない。ネットで【ラビリンス】について調べては絶望する日々を送っていた。
大学には行かずに、ずっとアパートの部屋に引きこもるようになった。
それから何日が過ぎたか、確認さえしなかった。
ある日のこと、ゴミ屋敷になったあたしの部屋の隅に積んでいた教科書が崩れて落ちた。その間に挟んであったサークル案内の紙が、目に留まった。
「迷宮……研究所……?」
そこには【迷宮研究所】と書かれていた。
それは、あたしの人生の六年を捧げた【ラビリンス】を研究するサークルだった。
サークル案内には、サークルの活動内容の他に、メンバーの募集、それと……。
「……まだ、ログインが……できる……?」
この頃、既に【ラビリンス】はサービスを停止していた。
被害者遺族との示談や裁判が始まっているとの報道もされていた。
このサークルも、活動を停止しているに違いない。そう思った。
でも、あたしはサークル案内に目を通してしまった。
そして気付いたときには靴を履き、玄関を開けて外に出て全力で走っていた。
それは、藁にも縋る思いだったのかもしれない。
もう一度……。
あともう一度だけでもいいから、【ラビリンス】の世界に行きたかった。
入学式の日以来、足を踏み入れることのなかったキャンパス内を、あたしは人の目に怯えながらも移動する。
少し迷いながらも、無事にサークル棟へと辿り着くことができた。
「……っ、……うぅ」
怖い。やっぱりアパートに戻ろうか。
【迷宮研究所】の扉の前まで来たけど、勇気が出ない。
いや、ここまで来たんだ。
扉を開けて話を聞いてみるんだ。
「……よし」
あたしは恐る恐る手を伸ばして、ドアノブを掴んで回す。
すると、勢いよく扉が開いて頭をぶつけてしまった。
誰かがあたしと同じタイミングで扉を開けたのだろう。
その場に尻餅を突いて痛みに耐えていると、謝る声と、手を差し伸べられた。
「ご、ごめん! 大丈夫かい!?」
「……っ」
その手を見た瞬間、あたしは思わず涙が出た。
それは痛みが原因ではない。絶望に枯れていたはずの心の扉が開いたのだ。
「怪我はしてない?」
「だい……じょうぶです」
涙を拭いて、鼻をすする。
躊躇いもあった。けど、あたしはその人の手を取る。
そしたらゆっくりと引っ張り上げられた。
「きみ、名前はなんて言うの?」
名前を教えると、その人は柔らかく笑った。
そしてもう一つ、あたしに質問を投げる。
「そっかそっか。ところできみは……βテスターかい?」
あたしは、ただ茫然とテレビのニュースを見ていた。
現段階で分かっているだけでも、八名が死亡しているとのこと。
【ラビリンス】には既にログインできない状態になっていて、このままサービスを停止する意向だと、運営会社の責任者の人が会見していた。
嘘だと言ってほしい。でも言ってくれない。
まさかあたしが【ラビリンス】から遠ざかっている間に、こんな事件が起きているとは思いもしなかった。
ニュースを見た親が【ラビリンス】の機器一式をゴミ袋に入れ始める。
何をしているのだろうと、ぼーっと見ていると、こんな危ないものは今すぐ捨てると言われた。
βテスターに選ばれてから、毎日欠かさず【ラビリンス】で遊んでいた。
それなのに、今は【ラビリンス】の世界に入ることもできない。
それは、大切な半身を奪われてしまったような感覚だった。
絶望したあたしは、大学生活どころではなくなった。
何もしたくない。何もする気が起きない。ネットで【ラビリンス】について調べては絶望する日々を送っていた。
大学には行かずに、ずっとアパートの部屋に引きこもるようになった。
それから何日が過ぎたか、確認さえしなかった。
ある日のこと、ゴミ屋敷になったあたしの部屋の隅に積んでいた教科書が崩れて落ちた。その間に挟んであったサークル案内の紙が、目に留まった。
「迷宮……研究所……?」
そこには【迷宮研究所】と書かれていた。
それは、あたしの人生の六年を捧げた【ラビリンス】を研究するサークルだった。
サークル案内には、サークルの活動内容の他に、メンバーの募集、それと……。
「……まだ、ログインが……できる……?」
この頃、既に【ラビリンス】はサービスを停止していた。
被害者遺族との示談や裁判が始まっているとの報道もされていた。
このサークルも、活動を停止しているに違いない。そう思った。
でも、あたしはサークル案内に目を通してしまった。
そして気付いたときには靴を履き、玄関を開けて外に出て全力で走っていた。
それは、藁にも縋る思いだったのかもしれない。
もう一度……。
あともう一度だけでもいいから、【ラビリンス】の世界に行きたかった。
入学式の日以来、足を踏み入れることのなかったキャンパス内を、あたしは人の目に怯えながらも移動する。
少し迷いながらも、無事にサークル棟へと辿り着くことができた。
「……っ、……うぅ」
怖い。やっぱりアパートに戻ろうか。
【迷宮研究所】の扉の前まで来たけど、勇気が出ない。
いや、ここまで来たんだ。
扉を開けて話を聞いてみるんだ。
「……よし」
あたしは恐る恐る手を伸ばして、ドアノブを掴んで回す。
すると、勢いよく扉が開いて頭をぶつけてしまった。
誰かがあたしと同じタイミングで扉を開けたのだろう。
その場に尻餅を突いて痛みに耐えていると、謝る声と、手を差し伸べられた。
「ご、ごめん! 大丈夫かい!?」
「……っ」
その手を見た瞬間、あたしは思わず涙が出た。
それは痛みが原因ではない。絶望に枯れていたはずの心の扉が開いたのだ。
「怪我はしてない?」
「だい……じょうぶです」
涙を拭いて、鼻をすする。
躊躇いもあった。けど、あたしはその人の手を取る。
そしたらゆっくりと引っ張り上げられた。
「きみ、名前はなんて言うの?」
名前を教えると、その人は柔らかく笑った。
そしてもう一つ、あたしに質問を投げる。
「そっかそっか。ところできみは……βテスターかい?」