奴隷拷問が趣味の公爵令嬢を殺ってしまったので変身魔法で成りすますことにしました
【33】今からあんたを殺すから
レミーゼのコレクション……拷問器具が並べられた地下室。
そこに逃げ込んだあたしは、レミーゼの亡骸と再会する。
「っ」
思わず目を背ける。
すると、その様子を見たであろうアルバータが高笑いした。
「はっはっは、逃げ場がなくなったわけだが、そろそろ神に祈る準備はできたかな?」
「神様? そんなもん居ないから!」
「くくく、それにはわしも同意しよう。もしこの世界に神が居たならば、妻がわしの許を去るはずがないのだからな」
逃げられたっぽい。
そりゃそうだ、こんな奇人変人狂人のおっさんと一緒に暮らしていけるものか。
アルバータ・ローテルハルク公爵は、娘のレミーゼと同じく【ラビリンス】のボスキャラの一人だ。故に、その腕も申し分ない。
主に全体型攻撃魔法を駆使し、王国兵をまとめて葬り去っていた。
その行動の全ては、レミーゼを守るためのもの。領民はもちろん、自分の命でさえも惜しくないと思えるほど、レミーゼのことを可愛く思っていたのだろう。
でも、所詮は序盤のボスキャラでしかない。
「段々、この感覚に慣れてきたかも」
「感覚?」
「ええ、この世界の緊張感ってやつにね」
脅威ではない。
βテストのときから【ラビリンス】漬けだった、あたしの敵じゃない。
使ってくる攻撃魔法も一番上が中級だし、これなら余裕をもって無力化することができるはずだ。
「きみが何を言っているのか、わしには理解できないが……まあいい。我が娘がしてきたように、きみを【隷属】で奴隷化して聞き出すことにしよう。たとえば、我が娘の最期はどうだったのか……とかな」
そう言って、アルバータはレミーゼへと視線を落とす。
「【拘束/鎖錠】!」
レミーゼの亡骸が見ている前で、あたしは再び拘束魔法を発動する。
今度のは、風属性の攻撃魔法では対処するのが難しい。恐らくは身を守る防御魔法か、回避行動を取るはず。その隙を突いて……。
「【反射】」
「――ッ!?」
そのとき耳に届いたのは、レミーゼ戦であたしが使用した防御魔法【反射】だった。
「ぐっ、……っ」
「やれやれ、実に無様だな」
あたしが拘束魔法を使うのを待っていたのだろう。アルバータはタイミングを見計らって【反射】の発動に成功し、逆にあたしが拘束されてしまった。
そんなあたしを見下ろしながら、アルバータは舌なめずりをする。
「我が娘の亡骸を見て、わしはすぐに理解した。きみが【反射】を使ったことを」
「ただの変態ってわけじゃないみたいね……」
あたしの台詞に、アルバータがニヤリと笑う。
先ほど地下室に下りたとき、レミーゼの状態を確認したはずだ。
その際、死因が電撃魔法によるものだと推理したのだろう。
そしてレミーゼは電撃魔法の使い手だ。
ということはつまり、あたしが電撃魔法を使うのか、それともレミーゼが自分の魔法で死んでしまったかの二択となる。
「ふむ。我が娘の前で我が娘の姿をしたきみを拷問できると思うと、鼓動の高鳴りを止めることができそうにない」
あたしがチャンスだと思っていたものは、アルバータがワザと作り出した隙に過ぎなかった。これも全ては、あたしの油断によるものだ。
【ラビリンス】の世界のアルバータは、【反射】を使わない。
だからこの世界のアルバータも使えないと思い込んでいた。
「……訂正、やっぱり変態ね」
ダメだな、どうやらあたしは、この期に及んでまだ現実感がなかったらしい。
この世界の認識を改め直さなければならない。
「【解除/鎖錠】」
「おや、また拘束を解いてしまったか」
目線を逸らすことなく、ゆっくりとその場に立ち上がる。
そしてもう一度、アルバータと顔を合わせた。
「では、今度は解除魔法が無意味となるよう、手足を切断することにしよう」
「さらっと怖いことを言うのね」
「怖い……? ははは、我が娘を殺したきみが、それを言うか?」
言われてみれば確かに。
人殺しのあたしが言える台詞ではない。
「見て見たまえ、ここには我が娘が愛した無数の拷問器具がある。その一つ一つに物語があり、この空間に様々な悲鳴が鳴り響いたことだろう。そして之より、新たな悲鳴が加わることになる。その主役となる人物が誰なのか、聡明なきみであれば、理解可能なはずだ」
あたしが主役ってことか。
その話の主役になるのはごめんだけど、転生までしちゃってるし、ある意味あたしは物語の主人公なのかもしれない。【ラビリンス】に似たこの世界限定の……。
「……撤回するわ」
「撤回? ……はて、何をかな」
「当初は、あんたを拘束して無力化するつもりだった……けど、それだけじゃダメなんだってことに気が付いた」
「ほう。なるほど? だとすれば、どうするつもりかな」
「決まってんでしょ」
もう、決めた。
【ラビリンス】に似たこの世界で生きていくには、覚悟を決める必要がある。
だからあたしは、心を閉じる。
そして……、
「アルバータ・ローテルハルク公爵……今からあんたを殺すから」
そこに逃げ込んだあたしは、レミーゼの亡骸と再会する。
「っ」
思わず目を背ける。
すると、その様子を見たであろうアルバータが高笑いした。
「はっはっは、逃げ場がなくなったわけだが、そろそろ神に祈る準備はできたかな?」
「神様? そんなもん居ないから!」
「くくく、それにはわしも同意しよう。もしこの世界に神が居たならば、妻がわしの許を去るはずがないのだからな」
逃げられたっぽい。
そりゃそうだ、こんな奇人変人狂人のおっさんと一緒に暮らしていけるものか。
アルバータ・ローテルハルク公爵は、娘のレミーゼと同じく【ラビリンス】のボスキャラの一人だ。故に、その腕も申し分ない。
主に全体型攻撃魔法を駆使し、王国兵をまとめて葬り去っていた。
その行動の全ては、レミーゼを守るためのもの。領民はもちろん、自分の命でさえも惜しくないと思えるほど、レミーゼのことを可愛く思っていたのだろう。
でも、所詮は序盤のボスキャラでしかない。
「段々、この感覚に慣れてきたかも」
「感覚?」
「ええ、この世界の緊張感ってやつにね」
脅威ではない。
βテストのときから【ラビリンス】漬けだった、あたしの敵じゃない。
使ってくる攻撃魔法も一番上が中級だし、これなら余裕をもって無力化することができるはずだ。
「きみが何を言っているのか、わしには理解できないが……まあいい。我が娘がしてきたように、きみを【隷属】で奴隷化して聞き出すことにしよう。たとえば、我が娘の最期はどうだったのか……とかな」
そう言って、アルバータはレミーゼへと視線を落とす。
「【拘束/鎖錠】!」
レミーゼの亡骸が見ている前で、あたしは再び拘束魔法を発動する。
今度のは、風属性の攻撃魔法では対処するのが難しい。恐らくは身を守る防御魔法か、回避行動を取るはず。その隙を突いて……。
「【反射】」
「――ッ!?」
そのとき耳に届いたのは、レミーゼ戦であたしが使用した防御魔法【反射】だった。
「ぐっ、……っ」
「やれやれ、実に無様だな」
あたしが拘束魔法を使うのを待っていたのだろう。アルバータはタイミングを見計らって【反射】の発動に成功し、逆にあたしが拘束されてしまった。
そんなあたしを見下ろしながら、アルバータは舌なめずりをする。
「我が娘の亡骸を見て、わしはすぐに理解した。きみが【反射】を使ったことを」
「ただの変態ってわけじゃないみたいね……」
あたしの台詞に、アルバータがニヤリと笑う。
先ほど地下室に下りたとき、レミーゼの状態を確認したはずだ。
その際、死因が電撃魔法によるものだと推理したのだろう。
そしてレミーゼは電撃魔法の使い手だ。
ということはつまり、あたしが電撃魔法を使うのか、それともレミーゼが自分の魔法で死んでしまったかの二択となる。
「ふむ。我が娘の前で我が娘の姿をしたきみを拷問できると思うと、鼓動の高鳴りを止めることができそうにない」
あたしがチャンスだと思っていたものは、アルバータがワザと作り出した隙に過ぎなかった。これも全ては、あたしの油断によるものだ。
【ラビリンス】の世界のアルバータは、【反射】を使わない。
だからこの世界のアルバータも使えないと思い込んでいた。
「……訂正、やっぱり変態ね」
ダメだな、どうやらあたしは、この期に及んでまだ現実感がなかったらしい。
この世界の認識を改め直さなければならない。
「【解除/鎖錠】」
「おや、また拘束を解いてしまったか」
目線を逸らすことなく、ゆっくりとその場に立ち上がる。
そしてもう一度、アルバータと顔を合わせた。
「では、今度は解除魔法が無意味となるよう、手足を切断することにしよう」
「さらっと怖いことを言うのね」
「怖い……? ははは、我が娘を殺したきみが、それを言うか?」
言われてみれば確かに。
人殺しのあたしが言える台詞ではない。
「見て見たまえ、ここには我が娘が愛した無数の拷問器具がある。その一つ一つに物語があり、この空間に様々な悲鳴が鳴り響いたことだろう。そして之より、新たな悲鳴が加わることになる。その主役となる人物が誰なのか、聡明なきみであれば、理解可能なはずだ」
あたしが主役ってことか。
その話の主役になるのはごめんだけど、転生までしちゃってるし、ある意味あたしは物語の主人公なのかもしれない。【ラビリンス】に似たこの世界限定の……。
「……撤回するわ」
「撤回? ……はて、何をかな」
「当初は、あんたを拘束して無力化するつもりだった……けど、それだけじゃダメなんだってことに気が付いた」
「ほう。なるほど? だとすれば、どうするつもりかな」
「決まってんでしょ」
もう、決めた。
【ラビリンス】に似たこの世界で生きていくには、覚悟を決める必要がある。
だからあたしは、心を閉じる。
そして……、
「アルバータ・ローテルハルク公爵……今からあんたを殺すから」