奴隷拷問が趣味の公爵令嬢を殺ってしまったので変身魔法で成りすますことにしました
【42】とある演説
「し、……死ぬ」
いっそ殺して、とはもちろん言わないけど、それぐらいあたしは疲れていた……。
侍女たちから新レミーゼと呼ばれるようになって一時間ほど、あたしがしたことといえば、まずは領民全員を対象とした演説だ。
この短時間でローテルハルク公爵家からレミーゼが演説を行うと発表し、実行に移すことができたのは、さすがとしか言いようがない。
そんな中で最も驚いたのが、領民たちの参加率だ。
兵士を引き連れて城下町の広場に足を運んだあたしは、その人の数に……引いた。
いや、あたしが呼びかけたんだけどね。
でもまさか、こんなに集まるとは思ってもみなかった。
「静粛に! 静粛に!」
「只今より、我らが聖女! レミーゼ・ローテルハルク様が演説を行う!」
兵士たちが声を上げ、あたしが演説するための舞台を作り上げる。
それに対し、領民たちは歓声を上げている。
「……お腹痛い」
この空気、ヤバい。今すぐ逃げ出したい。
兵士の話によると、ほぼ全ての領民があたしの演説目当てに集まっているとのこと。
レミーゼ、あんたどんだけ人気なんですか……。
ここに居る全ての視線を浴びながらも、あたしは舞台上に立つ。
ゆっくりと、大きく深呼吸をして……前を向く。
「――お父様が行方知らずになったわ」
第一声が、これだ。
その瞬間、辺りがざわつき始めた。領主が居なくなったのだから当然だ。
「この不測の事態に、神を名乗る輩は更なる試練を与えた……聖女フレア・レ・コールベルによる聖地巡礼の旅よ」
その名を口にすると、今度こそ不満の声が上がった。
それもそのはず、フレアはあたしのライバル的存在だからだ。
時系列的には聖地巡礼の方が先に決まっていたんだけど、まあそこは別にいい。わざわざ説明するまでもない。
大事なのは、そのあとだ。
「……あたしはこれまで、彼女のことを敵対視してきた。理由は……聡明な貴方たちであれば、言わずとも分かるでしょう」
ある日、王国公認の聖女様が誕生した。その者の名を、フレア・レ・コールベルという。
そして対抗するように、ローテルハルク領で新たな聖女様が誕生する。それがあたし……レミーゼ・ローテルハルク公爵令嬢だ。
二人の聖女は、比較の対象とされた。
その結果は言わずもがなで、王国公認の聖女派の人たちは、あたしを偽者の聖女だと罵った。
それが民たちの感情を高ぶらせることになった。
「正直に言うと、そのままでも構わないと思ったわ。だって、あたしには貴方たちが居るもの……でも、お父様の行方が分からなくなった今、あたしは……いえ、あたしたちは、無理矢理にでも変わらなければならなくなった」
優しく語りかけるように、言葉を紡いでいく。
すると、怒りに表情を歪めていた人たちが、あたしの声に耳を傾ける。
「あたしたちが暮らす、この土地を……そしてみんなの笑顔を守っていくために……だから、あたしの願いを聞いてほしい」
届くかどうか分からない。でも、訴えなければ伝わらない。
そして、あたしはレミーゼとしてみんなに声を届ける。
「ローテルハルク領の繁栄と、みんなの未来のために……あたしに力を貸してちょうだい」
静寂、そして歓声が上がる。
あたしの耳には、反対する声は一つも聞こえなかった。
「うぅぅ、お見事です……お嬢様……ッ!」
「うわっ、レバスチャン居たの!?」
聞き覚えのある声が聞こえて後ろを振り向くと、泣き顔に鼻水を垂らした老人……レバスチャンが立っていた。
「旦那様、見ておられますか……? お嬢様は……ご立派になられましたぞ……!!」
「はいはい、分かったから。とりあえず鼻水を拭きなさい」
今のあたしにできることは、全部やったつもりだ。
あとはもう、流れに身を任せるしかない。これでもフレアとの対立を防ぐことができないというのであれば、そのときは……レミーゼの代わりに、あたしがみんなを守ってみせる。
元βテスターの力を、思う存分見せ付けてやるつもりだ。
「お嬢様! 外に待機中の兵から、あの女が間もなく到着するとの知らせがありました!」
あたしの許に駆け寄る兵士が、フレア一行の情報を伝えに来る。
遂に、このときが来た……。
いよいよ本物の聖女様とのご対面というわけだ。
「教えてくれてありがとう。でも、本人の前でその言い方は絶対にしないこと。いいわね?」
「は、はい! 畏まりました!」
演説したけど、本当に大丈夫だろうか……。
いや、もうこのまま迎え入れるしかない。対策を練る時間は残されていないんだからね。
「……さあ、運命を変える時間よ」
意を決し、あたしは城へと戻る。
支度を整え、侍女たちにも指示を出し、レバスチャンをも顎で使う。
そして、あたしは足早に応接間へと向かった。一分一秒でも待たせたくないからね。
「――ッ!?」
そこに居たのは、聖女フレア・レ・コールベルで間違いない。
但し、もう一人……。
あたしがよく知る人物が、そこに居た。
いっそ殺して、とはもちろん言わないけど、それぐらいあたしは疲れていた……。
侍女たちから新レミーゼと呼ばれるようになって一時間ほど、あたしがしたことといえば、まずは領民全員を対象とした演説だ。
この短時間でローテルハルク公爵家からレミーゼが演説を行うと発表し、実行に移すことができたのは、さすがとしか言いようがない。
そんな中で最も驚いたのが、領民たちの参加率だ。
兵士を引き連れて城下町の広場に足を運んだあたしは、その人の数に……引いた。
いや、あたしが呼びかけたんだけどね。
でもまさか、こんなに集まるとは思ってもみなかった。
「静粛に! 静粛に!」
「只今より、我らが聖女! レミーゼ・ローテルハルク様が演説を行う!」
兵士たちが声を上げ、あたしが演説するための舞台を作り上げる。
それに対し、領民たちは歓声を上げている。
「……お腹痛い」
この空気、ヤバい。今すぐ逃げ出したい。
兵士の話によると、ほぼ全ての領民があたしの演説目当てに集まっているとのこと。
レミーゼ、あんたどんだけ人気なんですか……。
ここに居る全ての視線を浴びながらも、あたしは舞台上に立つ。
ゆっくりと、大きく深呼吸をして……前を向く。
「――お父様が行方知らずになったわ」
第一声が、これだ。
その瞬間、辺りがざわつき始めた。領主が居なくなったのだから当然だ。
「この不測の事態に、神を名乗る輩は更なる試練を与えた……聖女フレア・レ・コールベルによる聖地巡礼の旅よ」
その名を口にすると、今度こそ不満の声が上がった。
それもそのはず、フレアはあたしのライバル的存在だからだ。
時系列的には聖地巡礼の方が先に決まっていたんだけど、まあそこは別にいい。わざわざ説明するまでもない。
大事なのは、そのあとだ。
「……あたしはこれまで、彼女のことを敵対視してきた。理由は……聡明な貴方たちであれば、言わずとも分かるでしょう」
ある日、王国公認の聖女様が誕生した。その者の名を、フレア・レ・コールベルという。
そして対抗するように、ローテルハルク領で新たな聖女様が誕生する。それがあたし……レミーゼ・ローテルハルク公爵令嬢だ。
二人の聖女は、比較の対象とされた。
その結果は言わずもがなで、王国公認の聖女派の人たちは、あたしを偽者の聖女だと罵った。
それが民たちの感情を高ぶらせることになった。
「正直に言うと、そのままでも構わないと思ったわ。だって、あたしには貴方たちが居るもの……でも、お父様の行方が分からなくなった今、あたしは……いえ、あたしたちは、無理矢理にでも変わらなければならなくなった」
優しく語りかけるように、言葉を紡いでいく。
すると、怒りに表情を歪めていた人たちが、あたしの声に耳を傾ける。
「あたしたちが暮らす、この土地を……そしてみんなの笑顔を守っていくために……だから、あたしの願いを聞いてほしい」
届くかどうか分からない。でも、訴えなければ伝わらない。
そして、あたしはレミーゼとしてみんなに声を届ける。
「ローテルハルク領の繁栄と、みんなの未来のために……あたしに力を貸してちょうだい」
静寂、そして歓声が上がる。
あたしの耳には、反対する声は一つも聞こえなかった。
「うぅぅ、お見事です……お嬢様……ッ!」
「うわっ、レバスチャン居たの!?」
聞き覚えのある声が聞こえて後ろを振り向くと、泣き顔に鼻水を垂らした老人……レバスチャンが立っていた。
「旦那様、見ておられますか……? お嬢様は……ご立派になられましたぞ……!!」
「はいはい、分かったから。とりあえず鼻水を拭きなさい」
今のあたしにできることは、全部やったつもりだ。
あとはもう、流れに身を任せるしかない。これでもフレアとの対立を防ぐことができないというのであれば、そのときは……レミーゼの代わりに、あたしがみんなを守ってみせる。
元βテスターの力を、思う存分見せ付けてやるつもりだ。
「お嬢様! 外に待機中の兵から、あの女が間もなく到着するとの知らせがありました!」
あたしの許に駆け寄る兵士が、フレア一行の情報を伝えに来る。
遂に、このときが来た……。
いよいよ本物の聖女様とのご対面というわけだ。
「教えてくれてありがとう。でも、本人の前でその言い方は絶対にしないこと。いいわね?」
「は、はい! 畏まりました!」
演説したけど、本当に大丈夫だろうか……。
いや、もうこのまま迎え入れるしかない。対策を練る時間は残されていないんだからね。
「……さあ、運命を変える時間よ」
意を決し、あたしは城へと戻る。
支度を整え、侍女たちにも指示を出し、レバスチャンをも顎で使う。
そして、あたしは足早に応接間へと向かった。一分一秒でも待たせたくないからね。
「――ッ!?」
そこに居たのは、聖女フレア・レ・コールベルで間違いない。
但し、もう一人……。
あたしがよく知る人物が、そこに居た。