奴隷拷問が趣味の公爵令嬢を殺ってしまったので変身魔法で成りすますことにしました
【44】プレイヤー? なんですかそれ?
フレアの機嫌を損ねることなく、穏便に帰ってもらうために、あたしは最大限の根回しと、それに伴うお持て成しをしてみせた。あとはボロが出ないように気を付けるだけだ。
一つ一つ、丁寧に対応するたびに、サイダールが眉を潜める。
そのちょっとした仕草だけで察することができる。
やっぱりあいつ、あたしと同じ【ラビリンス】の元プレイヤーだ。
そうじゃないとあんな顔はしない。
大して興味はないといった表情を作っているつもりだろうけど、内心どうしてあのレミーゼがフレアを歓迎しているのだろうかと疑問に感じているはずだ。
【ラビリンス】のメインシナリオ通りに話が進んだ場合、レミーゼはフレアに嫌がらせをしなければならない。だというのに、このレミーゼは何もしようとしない。何故?
きっと、そんなことを考えているに違いない。
でも残念でした!
あたしはフレアと争うつもりなんて一ミリもありませんから!
あんたはプレイヤー側として行動しているから、レミーゼとフレアが敵対することになったとしても全く問題ないんだろうけど、レミーゼに成り済ましているあたしにとっては死活問題だからね。
ってことなので、あたしの邪魔だけはしないでよね!
ニコニコと笑みを浮かべたまま、あたしは頭の中でサイダールに怒声を浴びせる。
そしてようやく、本日のお持て成しの終了時刻となった。
笑顔を張り付けるのって、しんどい。
こんなに長時間、笑顔のままで過ごしたのは、生まれて初めてだよ。
とはいえ、前半戦は終わった。
このあとはゆっくりと湯船に浸かって体を休めよう。そして明日の後半戦に備えるんだ。
「フレア様、外までお見送りしますわ」
今宵は、あたしが用意させたローテルハルク領内随一の高級宿に泊まってもらうことになっている。
宿の女将にも、絶対に絶対に絶対に粗相がないようにと、口を酸っぱくして言っておいたので、恐らく大丈夫なはずだ。
「あの……レミーゼ様」
「はい? なにか?」
フレアがあたしと目を合わせて、名前を呼ぶ。さっさと宿に行けと言いたいところだけど、何やらあたしに言いたいことがあるらしい。
「き、今日は……とても楽しかったです」
「……そう言っていただけると、持て成した甲斐がありましたわ」
これは驚いた。
まさかフレアから感謝の言葉を口にされるとは思ってもみなかった。
しかも相手はあたし……つまり、レミーゼだ。
【ラビリンス】の世界ではあり得ない光景と言えるだろう。
「わたし、噂でしかレミーゼ様のことを知らなかったのですが、実際にお会いしてみて……本当に、本当に楽しくて……一緒にお喋りする時間が夢のようでした……」
聖地巡礼の旅に出るために、フレアはローテルハルク領を訪ねた。
でも、それはあくまでも王国から課せられた義務であり、フレア自身の意思が反映されたものではない。
そんな中で出会ったのが、フレアに対抗心を燃やして聖女を自称するレミーゼだ。
正直、心の中ではあたしのことが怖かったのかもしれない。
それはもちろん正解で、【ラビリンス】のレミーゼであれば嫌な思いをしたに違いない。
でも、ここにいるレミーゼは……あたしだ。
レミーゼに成り済ましているあたしと言葉を交わすうちに、フレアはあたしと仲良くなりたいと思ってくれたのだろう。
だからこそ、こんなことを口にしたのかもしれない。
「えっと……レミーゼ様、その……っ、わたしと、お友達に……いいえ、親友になってもらえませんか!」
「し、親友に……?」
「はいっ!」
もじもじしながらも、がしっとあたしの手を握る。
王国公認の聖女であるフレアには、対等な立場で話せる同年代の相手がいない。けれども今回、あたしと出会ったことで、心の内に秘めていた思いが外に出た。そんなところだろうか。
しかし困った。
あたしはフレアの親友になるために持て成したわけじゃないし、敵対しなければそれでいいと思っていた。
もし、断ったら……王国兵を引き連れて戦争を起こしますとか言わないよね?
「……うーん、お気持ちは凄く嬉しいですわ。でも、友達とか親友って、お願いしてなるものではないと思いませんか?」
言葉を選びながらも、あたしは自分の考えをフレアに伝える。
「それにあたし、友達とか居ないので……そういうのってよく分からなくて……」
「そ、そうですか……」
フレアがしょんぼりしている。
これはダメだ、このままだと絶対マズイことになるから、フォローを入れなくては!
「……ただ、少なくともあたしは、フレア様のことを凄く気に入っています。一人の人間として……。ですので、今はこの気持ちを伝えるだけでもよろしいですか?」
追加で答えると、フレアの表情がパッと明るくなった。
「! もちろんです! 少しずつ、ゆっくりと、育んでいきましょう!」
「え、ええ……ですね」
この様子なら、結果オーライ。だよね?
よし、よくやった、あたし!
その一方で、サイダールは目を細めてあたしたちのやり取りを傍観していた。
どこからどう見てもおかしいと思っているのだろう。
それもそのはず、【ラビリンス】の世界のレミーゼとフレアの対立は、何をしようとも変えることのできないものであり、言うなれば確定事項なのだ。
だというのに、何故か関係良好となっている。
元プレイヤーのサイダールにとっては、おかしな展開と言えるだろう。
まあ、サイダールが敵か味方か不明なうちは、何も教えるつもりはないけどね。
明日は、午後から城下町を案内する予定だ。
フレアを馬車に乗せると、もう一度手を握られる。そんなに強く握らなくても逃げないから、そろそろ離してください。
続いて、サイダールが馬車に乗ろうとして……あたしの傍に近寄ってきた。
そして、ぼそりと耳打ちする。
「お前もプレイヤーか?」
「プレイヤー? なんですかそれ?」
「……チッ」
サイダールは何か言いたそうだったけど、フレアに呼ばれて馬車に乗り込んだ。
「レミーゼ様! また明日、楽しみにしていますね!」
「ええ、あたしも」
何度も何度も大きく手を振って、フレアの姿が小さくなっていく。
そうして馬車を見送ったあと、あたしは思わずその場にへたり込んだ。
「……っっぅ、ああぁ~! っぶなかったぁ~!」
ついつい、安堵の声が漏れるのだった。
一つ一つ、丁寧に対応するたびに、サイダールが眉を潜める。
そのちょっとした仕草だけで察することができる。
やっぱりあいつ、あたしと同じ【ラビリンス】の元プレイヤーだ。
そうじゃないとあんな顔はしない。
大して興味はないといった表情を作っているつもりだろうけど、内心どうしてあのレミーゼがフレアを歓迎しているのだろうかと疑問に感じているはずだ。
【ラビリンス】のメインシナリオ通りに話が進んだ場合、レミーゼはフレアに嫌がらせをしなければならない。だというのに、このレミーゼは何もしようとしない。何故?
きっと、そんなことを考えているに違いない。
でも残念でした!
あたしはフレアと争うつもりなんて一ミリもありませんから!
あんたはプレイヤー側として行動しているから、レミーゼとフレアが敵対することになったとしても全く問題ないんだろうけど、レミーゼに成り済ましているあたしにとっては死活問題だからね。
ってことなので、あたしの邪魔だけはしないでよね!
ニコニコと笑みを浮かべたまま、あたしは頭の中でサイダールに怒声を浴びせる。
そしてようやく、本日のお持て成しの終了時刻となった。
笑顔を張り付けるのって、しんどい。
こんなに長時間、笑顔のままで過ごしたのは、生まれて初めてだよ。
とはいえ、前半戦は終わった。
このあとはゆっくりと湯船に浸かって体を休めよう。そして明日の後半戦に備えるんだ。
「フレア様、外までお見送りしますわ」
今宵は、あたしが用意させたローテルハルク領内随一の高級宿に泊まってもらうことになっている。
宿の女将にも、絶対に絶対に絶対に粗相がないようにと、口を酸っぱくして言っておいたので、恐らく大丈夫なはずだ。
「あの……レミーゼ様」
「はい? なにか?」
フレアがあたしと目を合わせて、名前を呼ぶ。さっさと宿に行けと言いたいところだけど、何やらあたしに言いたいことがあるらしい。
「き、今日は……とても楽しかったです」
「……そう言っていただけると、持て成した甲斐がありましたわ」
これは驚いた。
まさかフレアから感謝の言葉を口にされるとは思ってもみなかった。
しかも相手はあたし……つまり、レミーゼだ。
【ラビリンス】の世界ではあり得ない光景と言えるだろう。
「わたし、噂でしかレミーゼ様のことを知らなかったのですが、実際にお会いしてみて……本当に、本当に楽しくて……一緒にお喋りする時間が夢のようでした……」
聖地巡礼の旅に出るために、フレアはローテルハルク領を訪ねた。
でも、それはあくまでも王国から課せられた義務であり、フレア自身の意思が反映されたものではない。
そんな中で出会ったのが、フレアに対抗心を燃やして聖女を自称するレミーゼだ。
正直、心の中ではあたしのことが怖かったのかもしれない。
それはもちろん正解で、【ラビリンス】のレミーゼであれば嫌な思いをしたに違いない。
でも、ここにいるレミーゼは……あたしだ。
レミーゼに成り済ましているあたしと言葉を交わすうちに、フレアはあたしと仲良くなりたいと思ってくれたのだろう。
だからこそ、こんなことを口にしたのかもしれない。
「えっと……レミーゼ様、その……っ、わたしと、お友達に……いいえ、親友になってもらえませんか!」
「し、親友に……?」
「はいっ!」
もじもじしながらも、がしっとあたしの手を握る。
王国公認の聖女であるフレアには、対等な立場で話せる同年代の相手がいない。けれども今回、あたしと出会ったことで、心の内に秘めていた思いが外に出た。そんなところだろうか。
しかし困った。
あたしはフレアの親友になるために持て成したわけじゃないし、敵対しなければそれでいいと思っていた。
もし、断ったら……王国兵を引き連れて戦争を起こしますとか言わないよね?
「……うーん、お気持ちは凄く嬉しいですわ。でも、友達とか親友って、お願いしてなるものではないと思いませんか?」
言葉を選びながらも、あたしは自分の考えをフレアに伝える。
「それにあたし、友達とか居ないので……そういうのってよく分からなくて……」
「そ、そうですか……」
フレアがしょんぼりしている。
これはダメだ、このままだと絶対マズイことになるから、フォローを入れなくては!
「……ただ、少なくともあたしは、フレア様のことを凄く気に入っています。一人の人間として……。ですので、今はこの気持ちを伝えるだけでもよろしいですか?」
追加で答えると、フレアの表情がパッと明るくなった。
「! もちろんです! 少しずつ、ゆっくりと、育んでいきましょう!」
「え、ええ……ですね」
この様子なら、結果オーライ。だよね?
よし、よくやった、あたし!
その一方で、サイダールは目を細めてあたしたちのやり取りを傍観していた。
どこからどう見てもおかしいと思っているのだろう。
それもそのはず、【ラビリンス】の世界のレミーゼとフレアの対立は、何をしようとも変えることのできないものであり、言うなれば確定事項なのだ。
だというのに、何故か関係良好となっている。
元プレイヤーのサイダールにとっては、おかしな展開と言えるだろう。
まあ、サイダールが敵か味方か不明なうちは、何も教えるつもりはないけどね。
明日は、午後から城下町を案内する予定だ。
フレアを馬車に乗せると、もう一度手を握られる。そんなに強く握らなくても逃げないから、そろそろ離してください。
続いて、サイダールが馬車に乗ろうとして……あたしの傍に近寄ってきた。
そして、ぼそりと耳打ちする。
「お前もプレイヤーか?」
「プレイヤー? なんですかそれ?」
「……チッ」
サイダールは何か言いたそうだったけど、フレアに呼ばれて馬車に乗り込んだ。
「レミーゼ様! また明日、楽しみにしていますね!」
「ええ、あたしも」
何度も何度も大きく手を振って、フレアの姿が小さくなっていく。
そうして馬車を見送ったあと、あたしは思わずその場にへたり込んだ。
「……っっぅ、ああぁ~! っぶなかったぁ~!」
ついつい、安堵の声が漏れるのだった。