奴隷拷問が趣味の公爵令嬢を殺ってしまったので変身魔法で成りすますことにしました
【46】どっちの味方をすればいい?
「ちょ、……えっ?」
なぜ? どうして?
テイリーは炎を纏った剣を手に見上げ、一方のサイダールは宙に浮いたままこちらを見下ろしていた。
何がどうなったら、テイリーとサイダールが刃を交えるようなことになるのか。
っていうか、なんでここにサイダールが居るの?
あたしにはさっぱり訳が分からなかった。
……いや、考えるんだ。思考を放棄してはならない。
サイダールは、あたしに興味を持っていた。
だからこそ、あたしが居るであろうレミーゼの屋敷を訪ねてきた。
それを侵入者と判断し、テイリーが追い払おうとした。
その結果、テイリーとサイダールとの戦闘が始まった。そんな感じだろうか。
「ッ、レミーゼ様! ここは危険ですので、屋敷の中にお戻りください!」
あたしの姿に気付いたのだろう。
テイリーが声を荒げて指示を出す。
「テイリー! いったい何の騒ぎ!?」
「奴が屋敷に忍び込もうとしていたので、取り押さえようとしたところ、魔法による攻撃を受けました!」
やはり、あたしの予想が的中した。
「……あたしは、どうする?」
テイリーと、サイダール。
あたしは……どっちの味方をすればいい?
直属兵のテイリーは、あたしを守るためにサイダールと戦っている。
けれどもそれは、あたしがレミーゼだからであって、成り済ましがバレた瞬間にこの関係は終わりを迎えることになる。
では、サイダールはどうか?
【ラビリンス】の元プレイヤーであるサイダールを味方と断定するには、情報が足りない。
でも、ただ単に、あたしを仲間と思って近づいてきただけの可能性も否定できない状況なので、一概に敵だと決めつけることもできない。
では、どうすべきなのか?
「……決まってるでしょ」
悩むまでもない。
今のあたしはレミーゼ・ローテルハルクだ。
加勢するとすれば、それはどう考えてもテイリーの方だ。たとえそれが間違った選択だとしても、あたしは後悔しない。
「テイリー! 耳を塞ぎなさい! ――【爆炎】!」
「――ッ!!」
ってことで、中空に向けて攻撃魔法をぶっ放す。
「くっ、貴様ぁ……ッ!!」
飛行魔法を自在に扱えるのだろう。
サイダールは【爆炎】の対象範囲外へと逃げると、あたしと目を合わせる。
「……なるほど、あくまで貴様はそちら側ということだな?」
あー、ダメだ。完全にあたしを敵認定してるやつだ。
まあ、サイダール目掛けて攻撃魔法を撃った時点で、言い訳なんて必要ない。
今更あたしは敵じゃないですと言ったところで、信じるはずもないからね。
「無礼な男ね! このあたしをレミーゼ・ローテルハルクと知っての狼藉かしら!」
もう、どうにでもなれだ。
あたしは堂々と名乗りを上げて、サイダールを睨み付けてやる。
騒ぎが大きくなり、戦闘音を聞いた兵士たちが、続々と集まってくる。
「……チッ、時間切れか」
サイダールは分が悪いと感じたのだろう。これ以上は時間の無駄と考えたのか、あっさりと引き下がり、夜の闇に消えて行った。
たとえ兵士が何人集まろうとも、元プレイヤーのサイダールにとって、敵ではない。それはテイリーに関しても同じだ。剣と魔法の腕に秀でてはいるものの、レミーゼやアルバータと同様に、序盤の敵キャラに過ぎない。
では何故、サイダールは逃げたのか。
それはもちろん、あたしがテイリーに加勢したからだ。
サイダールは、あたしのことを【ラビリンス】の元プレイヤーだと勘繰っていた。
仮にあたしがプレイヤーだとしたら、その腕はサイダールにとって脅威となる。故に、警戒したのだろう。
まあ、あたしとしても、プレイヤーと戦うのは骨が折れる作業だ。
あのまま引いてくれて正直助かった。
【ラビリンス】のプレイヤーランキングで、年間一位にもなったことはあるけど、ここは【ラビリンス】とは違う世界だ。一度の失敗が、そのまま死を意味することになる。
【ラビリンス】の世界での戦闘とは訳が違うし、死に対する恐怖心から思うように動くこともできないだろう。
地下室でアルバータと対峙したときも、あたしは【ラビリンス】のときのような理想的な動きをすることができなかった。
追々、慣れる必要がありそうだ。
って、そんなことはどうでもいい。
「レミーゼ様、あの者は……」
「確か、サイダールと名乗っていたかしら。フレア様の護衛のダークエルフよ」
「……あの女の護衛でしたか」
あれ? もしかしてあたし、言ったらいけないことを口にした?
「テイリー、守ってくれてありがとう。貴方のおかげで助かったわ」
「いえ、俺は……」
またしても、テイリーは黙ってしまった。
本当にどうしたのだろう。あたしには見当もつかない。
「お嬢様ー! ご無事ですかー!」
「うわっ、どんどん来たわね……」
兵士が集まってくる。
よく見れば侍女やレバスチャンの姿もある。みんな心配してくれたみたいだ。
「レミーゼ様、ここはまだ危険ですので、今宵は城内でお休みください」
「ええ、そうさせてもらうわね」
ふかふかのベッドは我慢しよう。
……いや、城のベッドも同じかもしれない。うん、絶対にそうだ。
あたしは大きな欠伸を一つしながら、侍女たちと共に城内へと向かった。
そして翌日。
フレアの身柄が拘束され、地下牢送りになった旨を耳にする。
なぜ? どうして?
テイリーは炎を纏った剣を手に見上げ、一方のサイダールは宙に浮いたままこちらを見下ろしていた。
何がどうなったら、テイリーとサイダールが刃を交えるようなことになるのか。
っていうか、なんでここにサイダールが居るの?
あたしにはさっぱり訳が分からなかった。
……いや、考えるんだ。思考を放棄してはならない。
サイダールは、あたしに興味を持っていた。
だからこそ、あたしが居るであろうレミーゼの屋敷を訪ねてきた。
それを侵入者と判断し、テイリーが追い払おうとした。
その結果、テイリーとサイダールとの戦闘が始まった。そんな感じだろうか。
「ッ、レミーゼ様! ここは危険ですので、屋敷の中にお戻りください!」
あたしの姿に気付いたのだろう。
テイリーが声を荒げて指示を出す。
「テイリー! いったい何の騒ぎ!?」
「奴が屋敷に忍び込もうとしていたので、取り押さえようとしたところ、魔法による攻撃を受けました!」
やはり、あたしの予想が的中した。
「……あたしは、どうする?」
テイリーと、サイダール。
あたしは……どっちの味方をすればいい?
直属兵のテイリーは、あたしを守るためにサイダールと戦っている。
けれどもそれは、あたしがレミーゼだからであって、成り済ましがバレた瞬間にこの関係は終わりを迎えることになる。
では、サイダールはどうか?
【ラビリンス】の元プレイヤーであるサイダールを味方と断定するには、情報が足りない。
でも、ただ単に、あたしを仲間と思って近づいてきただけの可能性も否定できない状況なので、一概に敵だと決めつけることもできない。
では、どうすべきなのか?
「……決まってるでしょ」
悩むまでもない。
今のあたしはレミーゼ・ローテルハルクだ。
加勢するとすれば、それはどう考えてもテイリーの方だ。たとえそれが間違った選択だとしても、あたしは後悔しない。
「テイリー! 耳を塞ぎなさい! ――【爆炎】!」
「――ッ!!」
ってことで、中空に向けて攻撃魔法をぶっ放す。
「くっ、貴様ぁ……ッ!!」
飛行魔法を自在に扱えるのだろう。
サイダールは【爆炎】の対象範囲外へと逃げると、あたしと目を合わせる。
「……なるほど、あくまで貴様はそちら側ということだな?」
あー、ダメだ。完全にあたしを敵認定してるやつだ。
まあ、サイダール目掛けて攻撃魔法を撃った時点で、言い訳なんて必要ない。
今更あたしは敵じゃないですと言ったところで、信じるはずもないからね。
「無礼な男ね! このあたしをレミーゼ・ローテルハルクと知っての狼藉かしら!」
もう、どうにでもなれだ。
あたしは堂々と名乗りを上げて、サイダールを睨み付けてやる。
騒ぎが大きくなり、戦闘音を聞いた兵士たちが、続々と集まってくる。
「……チッ、時間切れか」
サイダールは分が悪いと感じたのだろう。これ以上は時間の無駄と考えたのか、あっさりと引き下がり、夜の闇に消えて行った。
たとえ兵士が何人集まろうとも、元プレイヤーのサイダールにとって、敵ではない。それはテイリーに関しても同じだ。剣と魔法の腕に秀でてはいるものの、レミーゼやアルバータと同様に、序盤の敵キャラに過ぎない。
では何故、サイダールは逃げたのか。
それはもちろん、あたしがテイリーに加勢したからだ。
サイダールは、あたしのことを【ラビリンス】の元プレイヤーだと勘繰っていた。
仮にあたしがプレイヤーだとしたら、その腕はサイダールにとって脅威となる。故に、警戒したのだろう。
まあ、あたしとしても、プレイヤーと戦うのは骨が折れる作業だ。
あのまま引いてくれて正直助かった。
【ラビリンス】のプレイヤーランキングで、年間一位にもなったことはあるけど、ここは【ラビリンス】とは違う世界だ。一度の失敗が、そのまま死を意味することになる。
【ラビリンス】の世界での戦闘とは訳が違うし、死に対する恐怖心から思うように動くこともできないだろう。
地下室でアルバータと対峙したときも、あたしは【ラビリンス】のときのような理想的な動きをすることができなかった。
追々、慣れる必要がありそうだ。
って、そんなことはどうでもいい。
「レミーゼ様、あの者は……」
「確か、サイダールと名乗っていたかしら。フレア様の護衛のダークエルフよ」
「……あの女の護衛でしたか」
あれ? もしかしてあたし、言ったらいけないことを口にした?
「テイリー、守ってくれてありがとう。貴方のおかげで助かったわ」
「いえ、俺は……」
またしても、テイリーは黙ってしまった。
本当にどうしたのだろう。あたしには見当もつかない。
「お嬢様ー! ご無事ですかー!」
「うわっ、どんどん来たわね……」
兵士が集まってくる。
よく見れば侍女やレバスチャンの姿もある。みんな心配してくれたみたいだ。
「レミーゼ様、ここはまだ危険ですので、今宵は城内でお休みください」
「ええ、そうさせてもらうわね」
ふかふかのベッドは我慢しよう。
……いや、城のベッドも同じかもしれない。うん、絶対にそうだ。
あたしは大きな欠伸を一つしながら、侍女たちと共に城内へと向かった。
そして翌日。
フレアの身柄が拘束され、地下牢送りになった旨を耳にする。