奴隷拷問が趣味の公爵令嬢を殺ってしまったので変身魔法で成りすますことにしました
【47】血の気が多いのは嫌いじゃないです
理解が追いつかない。
どうしてフレアが地下牢に閉じ込められることになったのか。
昨夜の出来事が原因か。
でもそれはフレアではなくてサイダールの仕業だ。フレア自身は何も悪くない。
だからあたしは慌てて会いに行こうとした。
けど、周りの人たち全員に全力で止められた。あたしの命を狙った奴の親玉と思われているのだろう。
違うと言っても説明できないもどかしさ……。
あたしとサイダールの関係を全部話すことができれば楽なんだけど、それは絶対にできない。
結局、あたしは地下牢に近づくことはおろか、城内から出ることも許可されなかった。
そして、予定していたフレアとの城下町散策イベントも、流れで中止になってしまった。
買い出しに行った侍女から伝え聞いた話によると、どうやらフレアが捕まったことや、その理由など、既に領内で噂になっているらしい。
これはみんなの誤解を解くために相当骨が折れそうだ……。
そんなことを悠長に考えていた……その夜のこと、再び凶報があたしの許へと舞い込んできた。
「た、たたたっ、大変です! 王国軍がこちらに向かっています!」
「――はい?」
またまたご冗談を……と言いたいところだけど、どうやら冗談ではないらしい。
血相を変えた兵士が城内に入るや否や、あたしとレバスチャン、そしてテイリーに報告する。それは、サイダールが二千の王国兵を引き連れて、ローテルハルク領へと進軍を開始したとするものだった。
進軍の理由は、聖女フレア・レ・コールベルの救出とのこと。
そして総指揮を執るのはもちろん、サイダールだ。
昨日の今日で、随分と行動の早いことで。
というか、そんなことはどうでもいい。それよりも、問題なのは進軍してくる王国兵の数だ。一千じゃなくて、二千って……。
「倍じゃん」
何してくれてんの、サイダール!
【ラビリンス】のメインシナリオ通りに話を進めたいんなら、せめてそこは大人しく一千で我慢してよね!
ダークエルフの顔を想像し、頭の中で愚痴を吐く。
それが本人に届くわけもないことは重々承知の上で、それでも愚痴を吐かずにはいられない。
「何が何でもシナリオ通りに事を運ぼうって意志を感じるわね」
あたしというイレギュラーな存在と出会ったからこそ、サイダールは決断せざるを得なかったのだろう。このままあたしを放っておけば、【ラビリンス】のシナリオが総崩れになってしまうと危惧したに違いない。
先手を打ったのは、サイダールだ。
じゃあ、後手のあたしは何をすればいい?
「お嬢様、陣頭指揮はお任せいたします! よろしいですな?」
「……ん? は?」
後手番を考えていると、横からレバスチャンが口を出す。
陣頭指揮……? あたしが……?
「えっと……冗談よね?」
「まさか! 旦那様が不在の今、ローテルハルク領を背負って立つことができるのは、お嬢様を除いておりませんからな!」
「いやいや、あたしにそんな大役っ、どう考えても無理でしょ!」
「ご謙遜なさるな! あの演説は、民の心に確かに響きましたぞ! ですからお嬢様が旦那様の代わりを務め、王国兵を迎え撃つのです!」
んなバカな!
っていうか、なんで迎え撃つ気満々なんですかレバスチャン!
「さあ、さあ! 民が待っておりますぞ!」
「はい? ちょっ、あたしは……っ」
レバスチャンに腕を掴まれ、城の外に出る。
すると、出待ちしていたのだろうか、領民たちがあたしの姿を見て歓声を浴びせる。
なにこれ、いったいどうなってるの?
「聖女様ー! 俺たちも戦いますよー!」「やってやりましょうよ!」「そうだそうだ! 王国兵を返り討ちにしてやるぜー!」「皆殺しにしてやんよー!」
……引くわ。
あんたたち、血の気が多すぎるって。
「見なさい、お嬢様。民たちの心は一つです……!」
「うん、見たくなかった」
今すぐ現実逃避したい。
逃げ場がないから無理だけど。
王国兵が進軍を開始したことは、領民にも伝わっている。
そこかしこから上がってくる声に、耳を傾けるまでもない。どうやらあたしたちも総出で迎え撃つことになりそうだ。
誰も彼もが武器を手に叫んでいる。
誰かに質問したいんですけど、ローテルハルク領には野蛮な人しか居ないんですかね?
僅か一日でこの有様ですよ。
どこで道を間違えたのか、誰か教えてください。
「さあ! 次は戦闘の準備を始めますぞ!」
「レバスチャン、あんたもノリノリよね」
なるほど、顔見せ役か。
あたしを城外に連れ出したのは、みんなの士気を高めるためってわけね。
もはやため息しか出ない。
城内に戻ると、兵士たちだけでなく、侍女たちもあっちへこっちへと忙しなく走っていく。武器庫から武具の調達をしているのだろう。これが戦争を始める前段階か。
「お嬢様! 杖の予備はこちらにたくさんありますからね!」
「え、ええ……ありがとう」
「お嬢様! 動き易く邪魔にならないドレスを幾つか用意しました!」
「あー、うん。ホントに動き易そうね……」
「お嬢様! 今すぐ魔道具店に行って爆発魔法を描いた巻物を貰ってきますね!」
「あんたは爆発好きすぎか!」
侍女たちも、やる気に満ちている。
誰一人として逃げようとはしない。
「これが、ローテルハルク……」
そう。これがローテルハルクで、レミーゼが守ろうとしたもの……。
「……あたしも、嫌いじゃないんだよね」
メインシナリオ通りに話を進めるためだけに、滅ぼされてしまう。それがローテルハルク領に科せられた宿命だ。
でも、そんなことはさせない。あたしが絶対に止めてみせる。
「ちょっと、お花を摘みに行ってくるわ」
だからあたしは、この場をこっそりと抜ける。
そして目的の場所へと人目を避けて向かった。
もう、できることはないのかもしれない。
もう、止めることはできないのかもしれない。
だけど、ほんの少しでも可能性があるのであれば、あたしはそこに賭けたい。
そしてどうにかしてもらおう。
他力本願クソ喰らえだけど、あたし一人じゃどうにもならない状況になっているんだ。
ってことで、無理矢理にでも手を貸してもらうつもりだ。
だからあたしは、地下牢に忍び込むことにした。
どうしてフレアが地下牢に閉じ込められることになったのか。
昨夜の出来事が原因か。
でもそれはフレアではなくてサイダールの仕業だ。フレア自身は何も悪くない。
だからあたしは慌てて会いに行こうとした。
けど、周りの人たち全員に全力で止められた。あたしの命を狙った奴の親玉と思われているのだろう。
違うと言っても説明できないもどかしさ……。
あたしとサイダールの関係を全部話すことができれば楽なんだけど、それは絶対にできない。
結局、あたしは地下牢に近づくことはおろか、城内から出ることも許可されなかった。
そして、予定していたフレアとの城下町散策イベントも、流れで中止になってしまった。
買い出しに行った侍女から伝え聞いた話によると、どうやらフレアが捕まったことや、その理由など、既に領内で噂になっているらしい。
これはみんなの誤解を解くために相当骨が折れそうだ……。
そんなことを悠長に考えていた……その夜のこと、再び凶報があたしの許へと舞い込んできた。
「た、たたたっ、大変です! 王国軍がこちらに向かっています!」
「――はい?」
またまたご冗談を……と言いたいところだけど、どうやら冗談ではないらしい。
血相を変えた兵士が城内に入るや否や、あたしとレバスチャン、そしてテイリーに報告する。それは、サイダールが二千の王国兵を引き連れて、ローテルハルク領へと進軍を開始したとするものだった。
進軍の理由は、聖女フレア・レ・コールベルの救出とのこと。
そして総指揮を執るのはもちろん、サイダールだ。
昨日の今日で、随分と行動の早いことで。
というか、そんなことはどうでもいい。それよりも、問題なのは進軍してくる王国兵の数だ。一千じゃなくて、二千って……。
「倍じゃん」
何してくれてんの、サイダール!
【ラビリンス】のメインシナリオ通りに話を進めたいんなら、せめてそこは大人しく一千で我慢してよね!
ダークエルフの顔を想像し、頭の中で愚痴を吐く。
それが本人に届くわけもないことは重々承知の上で、それでも愚痴を吐かずにはいられない。
「何が何でもシナリオ通りに事を運ぼうって意志を感じるわね」
あたしというイレギュラーな存在と出会ったからこそ、サイダールは決断せざるを得なかったのだろう。このままあたしを放っておけば、【ラビリンス】のシナリオが総崩れになってしまうと危惧したに違いない。
先手を打ったのは、サイダールだ。
じゃあ、後手のあたしは何をすればいい?
「お嬢様、陣頭指揮はお任せいたします! よろしいですな?」
「……ん? は?」
後手番を考えていると、横からレバスチャンが口を出す。
陣頭指揮……? あたしが……?
「えっと……冗談よね?」
「まさか! 旦那様が不在の今、ローテルハルク領を背負って立つことができるのは、お嬢様を除いておりませんからな!」
「いやいや、あたしにそんな大役っ、どう考えても無理でしょ!」
「ご謙遜なさるな! あの演説は、民の心に確かに響きましたぞ! ですからお嬢様が旦那様の代わりを務め、王国兵を迎え撃つのです!」
んなバカな!
っていうか、なんで迎え撃つ気満々なんですかレバスチャン!
「さあ、さあ! 民が待っておりますぞ!」
「はい? ちょっ、あたしは……っ」
レバスチャンに腕を掴まれ、城の外に出る。
すると、出待ちしていたのだろうか、領民たちがあたしの姿を見て歓声を浴びせる。
なにこれ、いったいどうなってるの?
「聖女様ー! 俺たちも戦いますよー!」「やってやりましょうよ!」「そうだそうだ! 王国兵を返り討ちにしてやるぜー!」「皆殺しにしてやんよー!」
……引くわ。
あんたたち、血の気が多すぎるって。
「見なさい、お嬢様。民たちの心は一つです……!」
「うん、見たくなかった」
今すぐ現実逃避したい。
逃げ場がないから無理だけど。
王国兵が進軍を開始したことは、領民にも伝わっている。
そこかしこから上がってくる声に、耳を傾けるまでもない。どうやらあたしたちも総出で迎え撃つことになりそうだ。
誰も彼もが武器を手に叫んでいる。
誰かに質問したいんですけど、ローテルハルク領には野蛮な人しか居ないんですかね?
僅か一日でこの有様ですよ。
どこで道を間違えたのか、誰か教えてください。
「さあ! 次は戦闘の準備を始めますぞ!」
「レバスチャン、あんたもノリノリよね」
なるほど、顔見せ役か。
あたしを城外に連れ出したのは、みんなの士気を高めるためってわけね。
もはやため息しか出ない。
城内に戻ると、兵士たちだけでなく、侍女たちもあっちへこっちへと忙しなく走っていく。武器庫から武具の調達をしているのだろう。これが戦争を始める前段階か。
「お嬢様! 杖の予備はこちらにたくさんありますからね!」
「え、ええ……ありがとう」
「お嬢様! 動き易く邪魔にならないドレスを幾つか用意しました!」
「あー、うん。ホントに動き易そうね……」
「お嬢様! 今すぐ魔道具店に行って爆発魔法を描いた巻物を貰ってきますね!」
「あんたは爆発好きすぎか!」
侍女たちも、やる気に満ちている。
誰一人として逃げようとはしない。
「これが、ローテルハルク……」
そう。これがローテルハルクで、レミーゼが守ろうとしたもの……。
「……あたしも、嫌いじゃないんだよね」
メインシナリオ通りに話を進めるためだけに、滅ぼされてしまう。それがローテルハルク領に科せられた宿命だ。
でも、そんなことはさせない。あたしが絶対に止めてみせる。
「ちょっと、お花を摘みに行ってくるわ」
だからあたしは、この場をこっそりと抜ける。
そして目的の場所へと人目を避けて向かった。
もう、できることはないのかもしれない。
もう、止めることはできないのかもしれない。
だけど、ほんの少しでも可能性があるのであれば、あたしはそこに賭けたい。
そしてどうにかしてもらおう。
他力本願クソ喰らえだけど、あたし一人じゃどうにもならない状況になっているんだ。
ってことで、無理矢理にでも手を貸してもらうつもりだ。
だからあたしは、地下牢に忍び込むことにした。