奴隷拷問が趣味の公爵令嬢を殺ってしまったので変身魔法で成りすますことにしました
【48】二人の聖女
「……よし、異常なし」
地下牢に続く階段を、足音を消しながら慎重に下りていく。
そっと顔を覗かせてみるけど、オットンの姿はない。どうやら留守のようだ。
王国兵との戦争に向けて駆り出されているのかもしれないけど、不用心にも程がある。この牢には、今回の戦争の原因とも言える聖女様が捕えられているのにね。
そこを留守にするなんて、正直間抜けすぎる。
まあ、そのおかげで何の問題もなく忍び込むことができるわけだけど。
次があれば、領内の穴を一つ一つ確かめることにしよう。
「フレア? ……居る?」
懐かしささえ感じる地下牢を、一歩ずつ進んで行く。
恐らくここに居るであろう聖女様の名前を呼びつつ……。すると、
「……あ、フレア!」
一番奥の牢で、何かが動いた。
確認してみると、そこにはフレアの姿があった……って、マズイ!
「ちょっと! 待ちなさい!」
自分が着ていた服を千切って、縄の代わりにしたのだろう。
それを鉄格子に引っかけたフレアは、そこに自分の首を入れようとしている。
「っ、レミーゼ様!? どうしてここに!」
「あんたに会いに来たのよ! って、どうでもいい! それよりそれ! あんた死ぬつもりじゃないでしょうね!?」
「とっ、止めないでください! 監守の方から聞きましたっ、わたしのせいで戦争が起きようとしていることを……ッ!!」
「いやいや! だからってなんであんたが死ななきゃなんないのよ!」
「これは! 戦争を引き起こしてしまったわたしなりのケジメです! だからお願いですっ、止めないでください!」
フレアは、自分が原因で戦争が起きようとしていることを悔やんでいる。
せめてその責任を取ろうと、自害を試みたのだ。
でもそれは間違っている。
そんなことをすれば猶更、後に引けなくなる。
「【熔解/対象:鉄格子】ッ!!」
「――ああっ」
鉄格子を溶かす。
今にも首を絞めようとしていたフレアは、力なくその場に倒れ込んだ。
あたしはそんなフレアの手を引っ張り、無理矢理に起き上がらせる。そして、
「勝手なことを言うな!」
思いっきり頬をひっぱたいてやった。
「ぃ、……う、うぅ、……うあああっ!!」
「……はぁ。泣くぐらいなら最初から止めときなさいっての」
一先ず、安心かな。
泣かれてしまったけど、死なれるよりはよっぽどマシだ。
「……あんたさ、自分のせいで戦争を引き起こしたって言ってるけど、まだ起きてないから。っていうか、まだ始まってもいないから!」
「っ、で、でも……もう、止めることなんて……」
「できる!」
フレアの不安な声を遮って、あたしは断言する。
「あんたと……このあたしが手を組めば、戦争の一つや二つ! 簡単に止めることができるっての!」
大見得を切ってみせる。
その大半が不確かなものであることは、ここでは置いておこう。
「……レミーゼ様と、わたしが……ですか?」
すると、フレアはか細い声ながらも絞り出し、目を合わせてきた。
だからあたしはしっかりと頷いてやる。
「あんたはだれ! 聖女でしょ! そして、一応あたしも……ローテルハルクでは聖女と呼ばれているわ。そんな二人が、二人の聖女が力を合わせるんだから、できないことなんて何もない! 違う?」
「二人の聖女……」
「いいこと? この戦争を止めることができるのは、あんたとあたしだけなの! だからお願いよ……あたしに、あんたの力を貸しなさい!」
言い切った。
正直、自分でも何を言っているのか分からなくなっていた。
これであたしの思いが伝わらないのであれば、もうどうしようもない。王国との全面戦争を迎え撃つまでだ。でも、
「レミーゼ様」
フレアが、あたしの名を口にする。
その瞳には、もう、迷いは無くなっていた。
「こういうとき、親友なら何も言わずに手を貸すのかもしれません……ですが、一言だけ。一言だけ、言わせてください……」
息を吸い、同じように吐く。
それから、フレアはあたしの手を取って宣言する。
「はいっ、喜んで!」
めっちゃ目が輝いてる……。
この日。
王国公認の聖女フレア・レ・コールベルと、ローテルハルク領限定の偽者聖女レミーゼ・ローテルハルクの二人が、手を取り合うことになった。
その目的は、ただ一つ。
戦争を止める。ただそれだけだ。
地下牢に続く階段を、足音を消しながら慎重に下りていく。
そっと顔を覗かせてみるけど、オットンの姿はない。どうやら留守のようだ。
王国兵との戦争に向けて駆り出されているのかもしれないけど、不用心にも程がある。この牢には、今回の戦争の原因とも言える聖女様が捕えられているのにね。
そこを留守にするなんて、正直間抜けすぎる。
まあ、そのおかげで何の問題もなく忍び込むことができるわけだけど。
次があれば、領内の穴を一つ一つ確かめることにしよう。
「フレア? ……居る?」
懐かしささえ感じる地下牢を、一歩ずつ進んで行く。
恐らくここに居るであろう聖女様の名前を呼びつつ……。すると、
「……あ、フレア!」
一番奥の牢で、何かが動いた。
確認してみると、そこにはフレアの姿があった……って、マズイ!
「ちょっと! 待ちなさい!」
自分が着ていた服を千切って、縄の代わりにしたのだろう。
それを鉄格子に引っかけたフレアは、そこに自分の首を入れようとしている。
「っ、レミーゼ様!? どうしてここに!」
「あんたに会いに来たのよ! って、どうでもいい! それよりそれ! あんた死ぬつもりじゃないでしょうね!?」
「とっ、止めないでください! 監守の方から聞きましたっ、わたしのせいで戦争が起きようとしていることを……ッ!!」
「いやいや! だからってなんであんたが死ななきゃなんないのよ!」
「これは! 戦争を引き起こしてしまったわたしなりのケジメです! だからお願いですっ、止めないでください!」
フレアは、自分が原因で戦争が起きようとしていることを悔やんでいる。
せめてその責任を取ろうと、自害を試みたのだ。
でもそれは間違っている。
そんなことをすれば猶更、後に引けなくなる。
「【熔解/対象:鉄格子】ッ!!」
「――ああっ」
鉄格子を溶かす。
今にも首を絞めようとしていたフレアは、力なくその場に倒れ込んだ。
あたしはそんなフレアの手を引っ張り、無理矢理に起き上がらせる。そして、
「勝手なことを言うな!」
思いっきり頬をひっぱたいてやった。
「ぃ、……う、うぅ、……うあああっ!!」
「……はぁ。泣くぐらいなら最初から止めときなさいっての」
一先ず、安心かな。
泣かれてしまったけど、死なれるよりはよっぽどマシだ。
「……あんたさ、自分のせいで戦争を引き起こしたって言ってるけど、まだ起きてないから。っていうか、まだ始まってもいないから!」
「っ、で、でも……もう、止めることなんて……」
「できる!」
フレアの不安な声を遮って、あたしは断言する。
「あんたと……このあたしが手を組めば、戦争の一つや二つ! 簡単に止めることができるっての!」
大見得を切ってみせる。
その大半が不確かなものであることは、ここでは置いておこう。
「……レミーゼ様と、わたしが……ですか?」
すると、フレアはか細い声ながらも絞り出し、目を合わせてきた。
だからあたしはしっかりと頷いてやる。
「あんたはだれ! 聖女でしょ! そして、一応あたしも……ローテルハルクでは聖女と呼ばれているわ。そんな二人が、二人の聖女が力を合わせるんだから、できないことなんて何もない! 違う?」
「二人の聖女……」
「いいこと? この戦争を止めることができるのは、あんたとあたしだけなの! だからお願いよ……あたしに、あんたの力を貸しなさい!」
言い切った。
正直、自分でも何を言っているのか分からなくなっていた。
これであたしの思いが伝わらないのであれば、もうどうしようもない。王国との全面戦争を迎え撃つまでだ。でも、
「レミーゼ様」
フレアが、あたしの名を口にする。
その瞳には、もう、迷いは無くなっていた。
「こういうとき、親友なら何も言わずに手を貸すのかもしれません……ですが、一言だけ。一言だけ、言わせてください……」
息を吸い、同じように吐く。
それから、フレアはあたしの手を取って宣言する。
「はいっ、喜んで!」
めっちゃ目が輝いてる……。
この日。
王国公認の聖女フレア・レ・コールベルと、ローテルハルク領限定の偽者聖女レミーゼ・ローテルハルクの二人が、手を取り合うことになった。
その目的は、ただ一つ。
戦争を止める。ただそれだけだ。