奴隷拷問が趣味の公爵令嬢を殺ってしまったので変身魔法で成りすますことにしました
【49】シナリオ通りには死なないよ
「あー、緊張する……」
ダメだ、胃に穴が開きそう。
いや、ひょっとしたら既に開いている可能性も……。
ということは今すぐ病院に直行した方がいい。
うん、そうしよう。
ところでこの世界、病院ってあるのかな?
【ラビリンス】だと病院自体がなかったから、ここでも無いような気がする。
……まあ、回復魔法が使えるからそれで何とかしろって話なんですけどね。
とにもかくにも翌朝、見張り台から視認できるほどの距離まで、二千の王国兵は近づいていた。
「王国兵をぶっ殺せー!」「一人十人ノルマだ! やるぞー!」「罠は仕掛けたか! 上手いことあいつらをおびき寄せるんだぞ!」「任せろー! 一網打尽にしてやるぜー!」
いきり立つ領民たちと、兵士たち。
ローテルハルク領のために動いてくれるのはありがたいけど、ちょっと生き急ぎすぎとは思いませんか?
「お嬢様。開戦準備を終えましたので、そろそろよろしいですかな」
「……ええ、分かっているわ」
レバスチャンの指示を受け、あたしは城下町の広場へと向かう。
そこであたしの号令を以って、この戦争の火蓋が切って落とされることになる。
もちろん、そんなことはさせない。
「損な役回りよね……」
思えばあの日、レミーゼに成り済ましたときから、全ては始まっていたのかもしれない。
アンとドゥのことなんて放っておいて、一人で逃げてしまえばよかった。
ローテルハルク領が滅びる未来は確定事項なのだから、見て見ぬ振りをしていればよかった。
でも、できなかったんだからしょーがない。
今のあたしはレミーゼ・ローテルハルクなんだから、その役目を全うする義務がある。
広場の舞台に上がると、みんなの顔がよく見える。
後ろめたい気持ちがあったから、正直に言うと真っ直ぐに見ることができなかった。
けれども、目を背けるのは、もう止めだ。
あたしと、もう一人……力を合わせて、今よりも前へと進むために……。
「見てなさい」
ボソリと呟く。
その相手は、地下室に眠る二人に向けたものだ。そして、
「? おい、あいつ誰だよ?」「なんで舞台に上がってんだ?」「あの顔、どこかで……」「アレだよ、あの女だよ!」「王国の手先だ!」「舞台に上がったぞ!」「レミーゼ様を守れ!」
ざわざわと声が溢れ出す。
と同時に、その人物――フレア・レ・コールベルを取り押さえるために、兵士たちが舞台へと上がる。
「静まりなさい!」
そしてそれを、あたしは止めた。
「フレアに対する全ての行為は、このあたしへの宣戦布告とみなすわ!」
だから静まれと。
あたしは、ここに居る全員に向けて、言葉をぶつける。
そいつは罪人なのに、どうして庇うようなことをするのか。
誰もがあたしの行動に異を呈していることだろう。
それは至極当然のことと言える。
でも、それでもあたしは守らなければならない。フレアと、みんなを……。
今にも開戦しそうな一触即発の空気の中、あたしはできることなら逃げ出したいと思っている。
だけど、それはできない。
今ここで、背を向けて逃げ出してしまえば、この場に居る全員が不幸になってしまうだろう。【ラビリンス】と同じ結末だけは迎えさせてはならないのだ。
本当のあたしはレミーゼではないし、ローテルハルク領の民でもない。
それにそもそも、この世界の人間ですらない。
でもあたしは……今のあたしは、……レミーゼなんだ。
アルバータ・ローテルハルク公爵の一人娘――レミーゼ・ローテルハルクに成り済ましているんだ!
だから、絶対に引くことはできない。
【ラビリンス】の元プレイヤーであるサイダールの思い通りになんてさせないし、シナリオ通りの死に方なんて真っ平ごめんだ!
数え切れないほどの非難の視線を浴びることで、フレアがあたしの手をギュッと握る。
不安なのだろう。
当たり前だ。不安なのはあたしだけじゃない。
フレアも、ここに居るみんなも、そして迎え撃つ王国の兵たちも……。
あたしは、その全てを救ってみせるよ。
それから一言。
開戦を前に、声も高々にレミーゼ節をお見舞いする。
「我が愛すべき子たちよ、聖女たるあたしの金言に、暫し耳を傾けなさい」
ダメだ、胃に穴が開きそう。
いや、ひょっとしたら既に開いている可能性も……。
ということは今すぐ病院に直行した方がいい。
うん、そうしよう。
ところでこの世界、病院ってあるのかな?
【ラビリンス】だと病院自体がなかったから、ここでも無いような気がする。
……まあ、回復魔法が使えるからそれで何とかしろって話なんですけどね。
とにもかくにも翌朝、見張り台から視認できるほどの距離まで、二千の王国兵は近づいていた。
「王国兵をぶっ殺せー!」「一人十人ノルマだ! やるぞー!」「罠は仕掛けたか! 上手いことあいつらをおびき寄せるんだぞ!」「任せろー! 一網打尽にしてやるぜー!」
いきり立つ領民たちと、兵士たち。
ローテルハルク領のために動いてくれるのはありがたいけど、ちょっと生き急ぎすぎとは思いませんか?
「お嬢様。開戦準備を終えましたので、そろそろよろしいですかな」
「……ええ、分かっているわ」
レバスチャンの指示を受け、あたしは城下町の広場へと向かう。
そこであたしの号令を以って、この戦争の火蓋が切って落とされることになる。
もちろん、そんなことはさせない。
「損な役回りよね……」
思えばあの日、レミーゼに成り済ましたときから、全ては始まっていたのかもしれない。
アンとドゥのことなんて放っておいて、一人で逃げてしまえばよかった。
ローテルハルク領が滅びる未来は確定事項なのだから、見て見ぬ振りをしていればよかった。
でも、できなかったんだからしょーがない。
今のあたしはレミーゼ・ローテルハルクなんだから、その役目を全うする義務がある。
広場の舞台に上がると、みんなの顔がよく見える。
後ろめたい気持ちがあったから、正直に言うと真っ直ぐに見ることができなかった。
けれども、目を背けるのは、もう止めだ。
あたしと、もう一人……力を合わせて、今よりも前へと進むために……。
「見てなさい」
ボソリと呟く。
その相手は、地下室に眠る二人に向けたものだ。そして、
「? おい、あいつ誰だよ?」「なんで舞台に上がってんだ?」「あの顔、どこかで……」「アレだよ、あの女だよ!」「王国の手先だ!」「舞台に上がったぞ!」「レミーゼ様を守れ!」
ざわざわと声が溢れ出す。
と同時に、その人物――フレア・レ・コールベルを取り押さえるために、兵士たちが舞台へと上がる。
「静まりなさい!」
そしてそれを、あたしは止めた。
「フレアに対する全ての行為は、このあたしへの宣戦布告とみなすわ!」
だから静まれと。
あたしは、ここに居る全員に向けて、言葉をぶつける。
そいつは罪人なのに、どうして庇うようなことをするのか。
誰もがあたしの行動に異を呈していることだろう。
それは至極当然のことと言える。
でも、それでもあたしは守らなければならない。フレアと、みんなを……。
今にも開戦しそうな一触即発の空気の中、あたしはできることなら逃げ出したいと思っている。
だけど、それはできない。
今ここで、背を向けて逃げ出してしまえば、この場に居る全員が不幸になってしまうだろう。【ラビリンス】と同じ結末だけは迎えさせてはならないのだ。
本当のあたしはレミーゼではないし、ローテルハルク領の民でもない。
それにそもそも、この世界の人間ですらない。
でもあたしは……今のあたしは、……レミーゼなんだ。
アルバータ・ローテルハルク公爵の一人娘――レミーゼ・ローテルハルクに成り済ましているんだ!
だから、絶対に引くことはできない。
【ラビリンス】の元プレイヤーであるサイダールの思い通りになんてさせないし、シナリオ通りの死に方なんて真っ平ごめんだ!
数え切れないほどの非難の視線を浴びることで、フレアがあたしの手をギュッと握る。
不安なのだろう。
当たり前だ。不安なのはあたしだけじゃない。
フレアも、ここに居るみんなも、そして迎え撃つ王国の兵たちも……。
あたしは、その全てを救ってみせるよ。
それから一言。
開戦を前に、声も高々にレミーゼ節をお見舞いする。
「我が愛すべき子たちよ、聖女たるあたしの金言に、暫し耳を傾けなさい」