奴隷拷問が趣味の公爵令嬢を殺ってしまったので変身魔法で成りすますことにしました
【52】そろそろ終わりにしないとね
宿に泊まる王国兵の許へと足を運び、謝罪を終えたあと、ようやくパーティーはお開きとなった。
フレアには宿で一泊してもらう予定だったけど、手を合わせてお願いされてしまったので、今夜は二人仲良くレミーゼの屋敷で寝泊まりすることになった。
「ここが、レミーゼ様のお屋敷……!」
「少し散らかってるけど、気にしないでちょうだい」
「全然! 全然気になりません! むしろレミーゼ様の生活感を知ることができて……とても素敵です!」
今の発言、若干危ないね?
苦笑いしつつも、あたしはフレアを屋敷の中へと招き入れる。
テイリーはレバスチャンと共に雑務処理に追われているらしい。屋敷に戻ってあたしの護衛を務めるには、もう少し時間がかかることだろう。
というわけで、暫くはフレアと二人きりだ。
「あぁ、このベッドでいつも眠っているのですね……!」
「ふかふかで寝心地抜群よ」
あたしのものではないのに、自慢げに語ってしまう。
だって仕方あるまい。このベッド、本当に気持ちいいんだもん。
「ふかふかなのですね……はぁぁ、このベッドでレミーゼ様とご一緒できるなんて夢みたいです」
「うんうん……え?」
勘違いしているみたいだけど、一緒には寝ないからね。
ベッドで寝るのはフレア一人で、あたしはソファに寝転がるつもりだ。
「この扉は……」
「あっ、っと! そこはダメ、あたしの秘密の部屋だから、許可なく入ったら絶交するからね」
「っ!? は、はい! 絶対に開けません!」
絶交と言う言葉が効いたようだ。
せっかくフレアと仲良くなれたのだから、あたしだって絶交したくはない。
しかしながら、地下室だけは見せることができない。
今もまだ、二人の亡骸を処理していないからね……。
「あっ、レミーゼ様は本もたくさん読まれるのですね?」
地下室に続く扉から目を離し、今度は書斎に足を運び、本棚へと視線を向ける。
そのまま、フレアは本棚の端から端までじっくりと眺めていく。
「ひょっとして、レミーゼ様は……恋愛小説がお好きなのですか?」
「んー、まあ……否定はしないわ」
「やっぱり!」
ここに置いてあるほぼ全ての本が恋愛小説だ。
あたし自身は別に興味ないけど、レミーゼが本棚に並べたのだから肯定しないとおかしいだろう。
「実は、わたしもなんです!」
すると、フレアが頬を緩めて同意する。
あたしの手をギュッと握り、顔を近づけて喜んだ。
「いつか、白馬の王子様が迎えに来てくれると……そんな未来があったら素敵だなって……胸がドキドキしてたまりませんよね!」
「う、うん……」
どうやらフレアは、夢見る少女のようだ。
まあ、残念ながらサイダールは白馬の王子様ではなかったけど。
「でもわたし、少し前から白馬の王子様よりも欲しいものができたんです」
「欲しいもの?」
「はい! レミーゼ様です!」
いきなりぶっちゃけてきましたよ、この聖女様は……。
「あっ、違いますよ! レミーゼ様ではなくて、その、いえっ、レミーゼ様なんですけど、そうじゃなくて……!」
「……つまり、親友が欲しかったってこと?」
「っ、それです!」
なるほど、そういうことか。
正解を口にすると、フレアはホッと一息吐いた。
「あたしも……ここに来てから孤独だったから、フレアと仲良くなれて嬉しいわ」
「ここに来てから……ですか?」
「いや、こっちの話だから、気にしないで」
まさか、別の世界から来たとは言えないからね。
手をひらひらとさせて、はぐらかす。
「――あ、誰か来たみたいですね?」
「テイリーかしら」
とここで、玄関のベルが鳴る。
テイリーが雑務を終えて戻ってきたのかもしれない。思っていたよりも早かった。
「わたしが出ますね!」
気が利く子だ。
【ラビリンス】にどっぷり浸かっていた現実のあたしとは大違いだ。
「……そろそろ、終わりにしないとね」
玄関へと向かうフレアの背中を見ながら、ぼそりと呟く。
このまま、レミーゼに成り済まして生きることはできない。
本当のあたしはレミーゼではなく、この世界ではトロアなのだから。
王国との衝突を避けることができた時点で、あたしの役目はほぼ終了している。
サイダールを見つけ出して拘束したあとは、【変身】を解いてトロアとして生きていくことになるだろう。
「フレアには悪いけど……」
せっかくできた親友が、突然行方を晦ませることになる。
フレアを裏切るような行為だと思うけど、いつまでもレミーゼを利用するわけにはいかない。
地下室の扉へと視線を移す。
その先にある二人の亡骸も、あたしがこの手で供養する。それが、二人の命を奪ったあたしにできる、唯一の償いだ……。
と、物思いに耽っているときだった。
「――嫌っ!」
フレアの声が響く。
すぐに視線を戻すと、フレアは両手両足を縛られたまま、玄関の床に倒れていた。
「フレアッ!!」
「あのいけ好かない野郎は不在のようだな」
続いて、別の声が響く。
玄関の扉の向こうから、ゆっくりと姿を現す人物がいた。それはもちろん、あの男だ。
「……サイダール!」
フレアには宿で一泊してもらう予定だったけど、手を合わせてお願いされてしまったので、今夜は二人仲良くレミーゼの屋敷で寝泊まりすることになった。
「ここが、レミーゼ様のお屋敷……!」
「少し散らかってるけど、気にしないでちょうだい」
「全然! 全然気になりません! むしろレミーゼ様の生活感を知ることができて……とても素敵です!」
今の発言、若干危ないね?
苦笑いしつつも、あたしはフレアを屋敷の中へと招き入れる。
テイリーはレバスチャンと共に雑務処理に追われているらしい。屋敷に戻ってあたしの護衛を務めるには、もう少し時間がかかることだろう。
というわけで、暫くはフレアと二人きりだ。
「あぁ、このベッドでいつも眠っているのですね……!」
「ふかふかで寝心地抜群よ」
あたしのものではないのに、自慢げに語ってしまう。
だって仕方あるまい。このベッド、本当に気持ちいいんだもん。
「ふかふかなのですね……はぁぁ、このベッドでレミーゼ様とご一緒できるなんて夢みたいです」
「うんうん……え?」
勘違いしているみたいだけど、一緒には寝ないからね。
ベッドで寝るのはフレア一人で、あたしはソファに寝転がるつもりだ。
「この扉は……」
「あっ、っと! そこはダメ、あたしの秘密の部屋だから、許可なく入ったら絶交するからね」
「っ!? は、はい! 絶対に開けません!」
絶交と言う言葉が効いたようだ。
せっかくフレアと仲良くなれたのだから、あたしだって絶交したくはない。
しかしながら、地下室だけは見せることができない。
今もまだ、二人の亡骸を処理していないからね……。
「あっ、レミーゼ様は本もたくさん読まれるのですね?」
地下室に続く扉から目を離し、今度は書斎に足を運び、本棚へと視線を向ける。
そのまま、フレアは本棚の端から端までじっくりと眺めていく。
「ひょっとして、レミーゼ様は……恋愛小説がお好きなのですか?」
「んー、まあ……否定はしないわ」
「やっぱり!」
ここに置いてあるほぼ全ての本が恋愛小説だ。
あたし自身は別に興味ないけど、レミーゼが本棚に並べたのだから肯定しないとおかしいだろう。
「実は、わたしもなんです!」
すると、フレアが頬を緩めて同意する。
あたしの手をギュッと握り、顔を近づけて喜んだ。
「いつか、白馬の王子様が迎えに来てくれると……そんな未来があったら素敵だなって……胸がドキドキしてたまりませんよね!」
「う、うん……」
どうやらフレアは、夢見る少女のようだ。
まあ、残念ながらサイダールは白馬の王子様ではなかったけど。
「でもわたし、少し前から白馬の王子様よりも欲しいものができたんです」
「欲しいもの?」
「はい! レミーゼ様です!」
いきなりぶっちゃけてきましたよ、この聖女様は……。
「あっ、違いますよ! レミーゼ様ではなくて、その、いえっ、レミーゼ様なんですけど、そうじゃなくて……!」
「……つまり、親友が欲しかったってこと?」
「っ、それです!」
なるほど、そういうことか。
正解を口にすると、フレアはホッと一息吐いた。
「あたしも……ここに来てから孤独だったから、フレアと仲良くなれて嬉しいわ」
「ここに来てから……ですか?」
「いや、こっちの話だから、気にしないで」
まさか、別の世界から来たとは言えないからね。
手をひらひらとさせて、はぐらかす。
「――あ、誰か来たみたいですね?」
「テイリーかしら」
とここで、玄関のベルが鳴る。
テイリーが雑務を終えて戻ってきたのかもしれない。思っていたよりも早かった。
「わたしが出ますね!」
気が利く子だ。
【ラビリンス】にどっぷり浸かっていた現実のあたしとは大違いだ。
「……そろそろ、終わりにしないとね」
玄関へと向かうフレアの背中を見ながら、ぼそりと呟く。
このまま、レミーゼに成り済まして生きることはできない。
本当のあたしはレミーゼではなく、この世界ではトロアなのだから。
王国との衝突を避けることができた時点で、あたしの役目はほぼ終了している。
サイダールを見つけ出して拘束したあとは、【変身】を解いてトロアとして生きていくことになるだろう。
「フレアには悪いけど……」
せっかくできた親友が、突然行方を晦ませることになる。
フレアを裏切るような行為だと思うけど、いつまでもレミーゼを利用するわけにはいかない。
地下室の扉へと視線を移す。
その先にある二人の亡骸も、あたしがこの手で供養する。それが、二人の命を奪ったあたしにできる、唯一の償いだ……。
と、物思いに耽っているときだった。
「――嫌っ!」
フレアの声が響く。
すぐに視線を戻すと、フレアは両手両足を縛られたまま、玄関の床に倒れていた。
「フレアッ!!」
「あのいけ好かない野郎は不在のようだな」
続いて、別の声が響く。
玄関の扉の向こうから、ゆっくりと姿を現す人物がいた。それはもちろん、あの男だ。
「……サイダール!」