奴隷拷問が趣味の公爵令嬢を殺ってしまったので変身魔法で成りすますことにしました
【55】神隠し、そして迷宮王
――【神隠し】。
それは【ラビリンス】におけるあたしの二つ名だ。
専用掲示板でそう呼ばれるようになってから暫く、気付いたときには称号にもなっていた。掲示板を見た【ラビリンス】の運営による悪ふざけだと思っている。
そして、あたしが持つ称号は、もう一つ。
――【迷宮王】。
それは【ラビリンス】で年間ランキング一位を獲得したプレイヤーにのみ与えられる称号だ。この称号を得た者は、過去に六人しかいない。そのうちの一人が、あたしだ。
「貴様が【神隠し】ということは、その姿は固有魔法で成り済ましたものなのか……? もしそれが事実だとすれば……つまり、貴様が【ラビリンス】の頂点……【迷宮王】……!?」
「よくできました」
バレた。
サイダールにも、そしてフレアにも。
「……しかし解せない。【迷宮王】……いや、【神隠し】よ、貴様がレミーゼに成り済ましているならば、本物のレミーゼはどこに……」
一瞬、思考が止まる。しかしすぐにピンときたようだ。
サイダールは目を見開き、あたしを見る。
「あぁ、……貴様、殺したな?」
「あんたが知る必要ないから」
「く、くくくっ、クハハハハッ! 隠しても無駄だ! 貴様は神出鬼没であると同時に冷酷無慈悲なプレイヤーでもあったはずだ! 故に! 今頃本物のレミーゼは、貴様の手によって神隠しに遭い……殺されたのだろう?」
まるで水を得た魚のようにウキウキしている。
しかしここまで推理されてしまうと、たとえここでサイダールを倒したとしても、隠し通すことはできそうにない。だって、フレアが全部聞いているし……。
まあ、サイダールの身柄を拘束したあとは、ローテルハルク領を去る予定だったし、別に問題はない。全ては予定の範囲内に収まっている……はずなんだけどね。
サイダールから目を離し、あたしはフレアを見る。
「レミーゼ様……」
すると名前を呼ばれた。
けど、あたしの名前がそれじゃないことは理解しているはずだ。
それなのにまだ、その名前で呼んでくれるんだね。
「……ごめんね、フレア。あたしさ……レミーゼじゃないんだ」
あっさりと、あたしは真実を口にする。
今更誤魔化す必要はない。フレアには正直に言うべきだと思った。
唯一、残念に思うのは、この世界で初めてできた友達に……いや、親友になってくれたフレアに、嫌われてしまうことだろうか……。でも、
「――ええ、知っています」
フレアはそう答えると、優しく微笑んだ。
「わたし、こう見えても王国に認められた聖女なんですよ? ですから、レミーゼ様が……本当は、別の誰かであるということに、初めから気付いていました」
……知っていた。
それなのに、気付かない振りをしていた……?
いや、そうじゃない。
気付かない振りをしていたんじゃなくて、レミーゼに成り済ますあたし自身を、フレアは受け入れてくれていたんだ……。
「レミーゼ様……ここでは、敢えてそう呼ばせていただきます」
床に倒れて、縛られている。
けれどもフレアは、力強い言葉をあたしにぶつけて、己の想いを全力で伝える。
「わたしは貴女の親友です! 今も……そしてこれから先も、ずっと……!!」
その言葉を聞いた瞬間、あたしは嘘で塗り固めて作られた仮面が外れるのを、確かに感じた。
「あんたってさ、本当に……真っ直ぐすぎて世間知らずな子よね」
「はい」
「そんなんだから、サイダールに利用されるのよ」
「はい」
「でも、そんなあんただから……あたしは仲良くなりたいって思ったのかもね」
目の前の敵を片付けたら、フレアに全てを話そう。
そしてあたし自身を見てもらうんだ。
「【迷宮王】よ、辞世の句は詠み上げなくともいいのか?」
「バカなこと言ってんじゃないよ」
首の骨を鳴らす。
ゆっくりと呼吸し、あたしはサイダールと目を合わせた。
そして、言う。
「かかってきなさい。このあたしが、特別に相手してあげるから」
それは【ラビリンス】におけるあたしの二つ名だ。
専用掲示板でそう呼ばれるようになってから暫く、気付いたときには称号にもなっていた。掲示板を見た【ラビリンス】の運営による悪ふざけだと思っている。
そして、あたしが持つ称号は、もう一つ。
――【迷宮王】。
それは【ラビリンス】で年間ランキング一位を獲得したプレイヤーにのみ与えられる称号だ。この称号を得た者は、過去に六人しかいない。そのうちの一人が、あたしだ。
「貴様が【神隠し】ということは、その姿は固有魔法で成り済ましたものなのか……? もしそれが事実だとすれば……つまり、貴様が【ラビリンス】の頂点……【迷宮王】……!?」
「よくできました」
バレた。
サイダールにも、そしてフレアにも。
「……しかし解せない。【迷宮王】……いや、【神隠し】よ、貴様がレミーゼに成り済ましているならば、本物のレミーゼはどこに……」
一瞬、思考が止まる。しかしすぐにピンときたようだ。
サイダールは目を見開き、あたしを見る。
「あぁ、……貴様、殺したな?」
「あんたが知る必要ないから」
「く、くくくっ、クハハハハッ! 隠しても無駄だ! 貴様は神出鬼没であると同時に冷酷無慈悲なプレイヤーでもあったはずだ! 故に! 今頃本物のレミーゼは、貴様の手によって神隠しに遭い……殺されたのだろう?」
まるで水を得た魚のようにウキウキしている。
しかしここまで推理されてしまうと、たとえここでサイダールを倒したとしても、隠し通すことはできそうにない。だって、フレアが全部聞いているし……。
まあ、サイダールの身柄を拘束したあとは、ローテルハルク領を去る予定だったし、別に問題はない。全ては予定の範囲内に収まっている……はずなんだけどね。
サイダールから目を離し、あたしはフレアを見る。
「レミーゼ様……」
すると名前を呼ばれた。
けど、あたしの名前がそれじゃないことは理解しているはずだ。
それなのにまだ、その名前で呼んでくれるんだね。
「……ごめんね、フレア。あたしさ……レミーゼじゃないんだ」
あっさりと、あたしは真実を口にする。
今更誤魔化す必要はない。フレアには正直に言うべきだと思った。
唯一、残念に思うのは、この世界で初めてできた友達に……いや、親友になってくれたフレアに、嫌われてしまうことだろうか……。でも、
「――ええ、知っています」
フレアはそう答えると、優しく微笑んだ。
「わたし、こう見えても王国に認められた聖女なんですよ? ですから、レミーゼ様が……本当は、別の誰かであるということに、初めから気付いていました」
……知っていた。
それなのに、気付かない振りをしていた……?
いや、そうじゃない。
気付かない振りをしていたんじゃなくて、レミーゼに成り済ますあたし自身を、フレアは受け入れてくれていたんだ……。
「レミーゼ様……ここでは、敢えてそう呼ばせていただきます」
床に倒れて、縛られている。
けれどもフレアは、力強い言葉をあたしにぶつけて、己の想いを全力で伝える。
「わたしは貴女の親友です! 今も……そしてこれから先も、ずっと……!!」
その言葉を聞いた瞬間、あたしは嘘で塗り固めて作られた仮面が外れるのを、確かに感じた。
「あんたってさ、本当に……真っ直ぐすぎて世間知らずな子よね」
「はい」
「そんなんだから、サイダールに利用されるのよ」
「はい」
「でも、そんなあんただから……あたしは仲良くなりたいって思ったのかもね」
目の前の敵を片付けたら、フレアに全てを話そう。
そしてあたし自身を見てもらうんだ。
「【迷宮王】よ、辞世の句は詠み上げなくともいいのか?」
「バカなこと言ってんじゃないよ」
首の骨を鳴らす。
ゆっくりと呼吸し、あたしはサイダールと目を合わせた。
そして、言う。
「かかってきなさい。このあたしが、特別に相手してあげるから」