奴隷拷問が趣味の公爵令嬢を殺ってしまったので変身魔法で成りすますことにしました
【59】あたしは……だれ?
翌日。
サイダールとの一騎打ちから一夜明け、フレアとあたしは思う存分に領内を散策して回った。
元々立ち寄る予定ではなかった喫茶にふらっとお邪魔してみたり、屋台を巡って食べ歩きをしてみたり、景色のいい場所でゆっくり談笑してみたり、現実世界では一度も経験したことのないことを、フレアと共に堪能することができた。
そんな中、最も緊張したのはそのあとだった。
刻一刻と近づくのは、フレアとの別れのときだ。けれどもその前に、一つだけ二人でやらなければならないことがあった。
「……準備はいい?」
「はい、もちろんです!」
今、あたしたちが居る場所は、城下町の中心部だ。
伝達魔法で演説した舞台の上に、二人して立っている。
まさか、二日続けて舞台に上がることになろうとは思いもしなかった。
それもあたし一人じゃなくて、フレアと二人で……。
レミーゼに成り済ましたまま、あたしとフレアはローテルハルク領の民や兵士たちを集めた。そしてもう一度だけ、嘘を吐くことにした。
語る話は、アルバータとサイダールについてだ。
ここ数日、行方不明であった父アルバータ・ローテルハルク公爵が既に死亡していたこと、父を殺害したのはサイダールであったこと、そしてそのサイダールの首を獲ったこと。
これは、フレアが提案したことだった。
レミーゼに関してはどうすることもできないけど、アルバータの死は偽装することができる。だからその罪をサイダールに押し付けようと言われたのだ。
この世界の聖女様という人は、大それた嘘を吐くものだと、思わず肩を竦めたものだ。
でも、それこそが罪の共有なのだろう。
おかげさまで、あたしの心はほんの少し軽くなった気がする。
というか、そもそもの話、あたしは今も継続してレミーゼに成り済ましているのだから、今更かもしれない。
そしてこの日、サイダールは【罪人】として、この世界に名を刻むこととなった。
それから一時間もしないうちに、別れのときは訪れる。
フレア・レ・コールベルの聖地巡礼の旅は、まだ始まったばかりなのだ。【ラビリンス】のシナリオ通りに考えるとすれば、これからが本番だと言えるだろう。
「さよならは言わないわ」
「うぅ、……でも、寂しいです……」
フレアが目を潤ませている。今にも泣いてしまいそうな表情だ。
とはいえ、ここで引き留めるわけにはいかない。フレアはあたしの親友だけど、王国公認の聖女様なのだからね。
「この地で、あんたのことを応援するから……しっかり頑張ってきなさい」
「……う、……はい、……わたし、がんばります!」
俯いていた顔を上げ、フレアは意気込む。
この調子なら、無事に聖地巡礼の旅を終えることができるだろう。そしてそのあとはまた、ここに遊びに来ればいい。
「レミーゼ様……、……トロア様。……それと、……」
馬車に乗り込む前に、フレアはあたしの名を呼んだ。
小声で誰にも聞こえないように……。
「二人だけの秘密ですね」
「それを言うならあんたの秘密も何か教えなさいよ」
「それは次の機会に残しておきます」
そう言って、フレアは嬉しそうに微笑むと、馬車に乗って次の目的地へと向かっていった。
「……またね、フレア」
トロアに転生してからいうもの、怒涛の数日間だった。
でも、それもようやく一段落だ。
雑務処理やら何やら、やるべきことはまだまだたくさんあるだろうけど、今日ぐらいはゆっくりお風呂に入りたい。いや、それよりもまずは、屋敷にあるふかふかのベッドに体を沈めたいかも……。
疲れもあるけど、眠気には勝てない。
あたしは領民たちからもみくちゃにされながらも屋敷へと戻り、一先ず仮眠をとることにした。でも、
「【拘束/鉄鎖】」
「――ッ!?」
玄関を開けて中に入ると同時に、何者かに背後から拘束魔法をかけられてしまった。
「だ、だれ……えっ?」
床に転びながらも体を反転し、あたしは【拘束】を発動した人物を瞳に捉える。
そこに居たのは、そこで泣きながらあたしを見下ろしていたのは……。
「……て、テイリー?」
何故、テイリーがあたしを襲うのか。その理由は、すぐに分かった。
テイリーは泣きながら叫ぶ。あたしを睨み付けて、心の声をぶつけてくる。
「お前は誰だ……答えろ!!」
サイダールとの一騎打ちから一夜明け、フレアとあたしは思う存分に領内を散策して回った。
元々立ち寄る予定ではなかった喫茶にふらっとお邪魔してみたり、屋台を巡って食べ歩きをしてみたり、景色のいい場所でゆっくり談笑してみたり、現実世界では一度も経験したことのないことを、フレアと共に堪能することができた。
そんな中、最も緊張したのはそのあとだった。
刻一刻と近づくのは、フレアとの別れのときだ。けれどもその前に、一つだけ二人でやらなければならないことがあった。
「……準備はいい?」
「はい、もちろんです!」
今、あたしたちが居る場所は、城下町の中心部だ。
伝達魔法で演説した舞台の上に、二人して立っている。
まさか、二日続けて舞台に上がることになろうとは思いもしなかった。
それもあたし一人じゃなくて、フレアと二人で……。
レミーゼに成り済ましたまま、あたしとフレアはローテルハルク領の民や兵士たちを集めた。そしてもう一度だけ、嘘を吐くことにした。
語る話は、アルバータとサイダールについてだ。
ここ数日、行方不明であった父アルバータ・ローテルハルク公爵が既に死亡していたこと、父を殺害したのはサイダールであったこと、そしてそのサイダールの首を獲ったこと。
これは、フレアが提案したことだった。
レミーゼに関してはどうすることもできないけど、アルバータの死は偽装することができる。だからその罪をサイダールに押し付けようと言われたのだ。
この世界の聖女様という人は、大それた嘘を吐くものだと、思わず肩を竦めたものだ。
でも、それこそが罪の共有なのだろう。
おかげさまで、あたしの心はほんの少し軽くなった気がする。
というか、そもそもの話、あたしは今も継続してレミーゼに成り済ましているのだから、今更かもしれない。
そしてこの日、サイダールは【罪人】として、この世界に名を刻むこととなった。
それから一時間もしないうちに、別れのときは訪れる。
フレア・レ・コールベルの聖地巡礼の旅は、まだ始まったばかりなのだ。【ラビリンス】のシナリオ通りに考えるとすれば、これからが本番だと言えるだろう。
「さよならは言わないわ」
「うぅ、……でも、寂しいです……」
フレアが目を潤ませている。今にも泣いてしまいそうな表情だ。
とはいえ、ここで引き留めるわけにはいかない。フレアはあたしの親友だけど、王国公認の聖女様なのだからね。
「この地で、あんたのことを応援するから……しっかり頑張ってきなさい」
「……う、……はい、……わたし、がんばります!」
俯いていた顔を上げ、フレアは意気込む。
この調子なら、無事に聖地巡礼の旅を終えることができるだろう。そしてそのあとはまた、ここに遊びに来ればいい。
「レミーゼ様……、……トロア様。……それと、……」
馬車に乗り込む前に、フレアはあたしの名を呼んだ。
小声で誰にも聞こえないように……。
「二人だけの秘密ですね」
「それを言うならあんたの秘密も何か教えなさいよ」
「それは次の機会に残しておきます」
そう言って、フレアは嬉しそうに微笑むと、馬車に乗って次の目的地へと向かっていった。
「……またね、フレア」
トロアに転生してからいうもの、怒涛の数日間だった。
でも、それもようやく一段落だ。
雑務処理やら何やら、やるべきことはまだまだたくさんあるだろうけど、今日ぐらいはゆっくりお風呂に入りたい。いや、それよりもまずは、屋敷にあるふかふかのベッドに体を沈めたいかも……。
疲れもあるけど、眠気には勝てない。
あたしは領民たちからもみくちゃにされながらも屋敷へと戻り、一先ず仮眠をとることにした。でも、
「【拘束/鉄鎖】」
「――ッ!?」
玄関を開けて中に入ると同時に、何者かに背後から拘束魔法をかけられてしまった。
「だ、だれ……えっ?」
床に転びながらも体を反転し、あたしは【拘束】を発動した人物を瞳に捉える。
そこに居たのは、そこで泣きながらあたしを見下ろしていたのは……。
「……て、テイリー?」
何故、テイリーがあたしを襲うのか。その理由は、すぐに分かった。
テイリーは泣きながら叫ぶ。あたしを睨み付けて、心の声をぶつけてくる。
「お前は誰だ……答えろ!!」