奴隷拷問が趣味の公爵令嬢を殺ってしまったので変身魔法で成りすますことにしました

【9】電気椅子に座ることになりました

「驚いた? ねえ、驚いたかしら? ふふっ、うふふっ、凄いでしょう? これ、全部! ここにあるもの、ぜーんぶ! あたしが集めたの!」

 ニコニコと笑いながら、レミーゼが声を上げる。
 拷問するために作られた器具の一つ一つを優しい手つきで撫でたかと思えば、頬擦りまで始めてしまった。そんなに拷問器具が好きなのか……。

「たとえば、この木馬! どうやって遊ぶものか、貴女には分かる? 分かる?」

 拷問器具の使い方を問われる。
 その木馬は、跨る箇所……背の部分が尖っていた。いわゆる三角木馬というものだろう。

「木馬の背に跨らせることで、股を裂くのが目的だと思います」
「んっん~、惜しいわね! 奴隷の体を拘束した状態で跨ってもらうところまでは正解ってことでいいわ! でもね、その先がちょっとだけ違うの! ほら、ここ見て! 足元にいっぱい針が刺さっているでしょう? これが何を意味するのか考えてちょうだい!」

 嬉々とした表情で流暢に語り続ける。
 ここに来てからのレミーゼは、自分の玩具を自慢したくてたまらない子供のようだ。

「……よく見ると木馬が低いので、足がつきます。ですが足をつけると針が刺さってしまうので、足を上げて跨らなければなりません」
「そう! その通りよ! これは二段責めの拷問器具なの! 股を裂くか、それとも足を針で貫くか! どちらを選択するのか奴隷自身に決めさせるの! ふふっ、ふふふふふっ、とっても面白いでしょう? 一度試してみたいと思うわよね?」
「いえ、試したくありません」
「ざーんねん! 拒否権は無いの! 貴女は奴隷! あたしの奴隷なの! だからあたしの命令には絶対従わなければならないのよ!」

 反吐が出る。
 御忍びで地下牢に足を運び、罪人を【隷属】で奴隷化し、ここで拷問器具にかける。
 これが、人のすることなのか。

「でもね、でもねっ、見てもらえば分かると思うけれど、拷問器具はいっぱいあるの! その一つ一つを、ちゃーんと使い方から苦しみ方まで付きっ切りで教えてあげる! だから、どれが一番気に入ったか教えてちょうだいね? そうしたら貴女の好みの器具でタップリと拷問してあげちゃうから」

 その言葉の通り、レミーゼは地下室に並べられた拷問器具の用途を丁寧に説明していった。それはもう、うんざりするほどに……。

「――で、貴女はどれが一番気に入ったかしら? あたしのオススメは、やっぱりこれね。だってどんなに声を上げても意味がないもの。それって一切救いが無くて最高だと思わない?」

 レミーゼのお気に入りは、地球では鉄の処女と呼ばれる拷問器具だ。
 鉄製の人形の中は空洞になっていて、人が一人入ることができるようになっている。

 この中に閉じ込められたら、声を上げても外には漏れない。暗闇の中で身動き一つ取ることができず、ただじっと我慢しなければならない。

 それだけなら、まだいい。
 鉄の処女の恐ろしいところは、空洞部に長い釘が幾つも植え付けられていることだ。

 もし、この人形の中に閉じ込められたら……串刺しになって悲鳴を上げて間もなく、血に塗れたまま、息絶えることになるだろう。

「あたしは……コレです」

 レミーゼの問いかけに、あたしは嫌々ながらも拷問器具を一つ、指さした。それは電気椅子……この世界では魔力椅子と呼ばれるものだ。
 肉体を直接傷付けられることがないので、拷問器具の中では相対的にマシな部類と言えるだろう。

「ふふふ、魔力椅子ね? そっか、そっかぁ、……貴女は椅子に座って拘束されたまま刺激を与えてもらうのが好みなのね」

 うんうんと頷き、レミーゼが魔力椅子へと視線を向ける。
 この屋敷に来てから気づいたことだけど、この世界には電気がない。作ること自体はできるのかもしれないけど、その必要がなかった。

 単純だけど、理由は一つ。
 この世界には魔法があるからだ。

 地下室に来たとき、レミーゼがしてみせたように、光魔法が電気の役割を果たしている。だからこの魔力椅子も、光魔法の魔力を直に供給することで、電気に似た刺激を与える仕組みになっていた。

 魔力を供給する側、つまりはレミーゼの気分次第で、幾らでも威力を上げることができる。
 その気になれば、一瞬で殺すことも不可能ではないはずだ。

 事実として、【ラビリンス】に登場するレミーゼは光魔法を得意としていた。
 これまでにも多くの罪人を【隷属】で奴隷化し、この椅子に座らせて拷問してきたに違いない。

「いいわ、今日は特別に貴女の思いを尊重して、魔力椅子で可愛がってあげることにする」

 だから座りなさい、と。
 レミーゼに命令されて、あたしは言われるがままに従う。

「今から、あたしの質問に答えなさい。口答えしたら殺すから」

 するとここで、口調はおろか一人称までも変わる。レミーゼが薄気味悪い笑みを作るのを止めた。
 これこそが、ローテルハルク領の聖女と呼ばれる公爵令嬢が見せる本当の顔だ。

「まあ、もっとも、【隷属】でそんなことはできないだろうけど」

 鼻で笑い、レミーゼは早速とばかりに本題を口にする。

「あんたさ、あたしがヤバいやつだってこと……気付いてたよね?」
「はい」
「それ、どこで聞いたの?」
「聞いてはいません」
「は? 聞かなきゃ分からないでしょ」
「聞いてはいません」

 言葉の通り、あたしは誰にも聞いてはいない。
 レミーゼに関することは【ラビリンス】を遊ぶ過程で知ったものなので、誰かに聞いたわけではなかった。だから質問の答えが「聞いてはいません」になる。

「……じゃあ、どうやって知ったのよ! 正直に言いなさい!」

 眉間に皺を寄せて、レミーゼは一歩前に出る。
 その質問の仕方で、ようやくあたしは本当のことを口にする。

「【ラビリンス】の設定で、レミーゼ様の趣味が奴隷を拷問することだと知りました」
「……は? ……設定? ら、……【ラビリンス】?」
「はい。レミーゼ・ローテルハルクは【ラビリンス】の序盤に登場するNPCの一人であり、プレイヤーが対峙する最初のボスキャラクターでもあります」

 あたしの言葉を聞いたレミーゼは、実に間の抜けた顔をしていた。
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