腹黒王子とめぐるの耽溺日誌

「で、どうだったの?」


「ぜ、全然ダメだった……」




向坂君は珈琲を飲みながら ふぅん?と、どこか他人事のように呟いた。

今、私達はあの喫茶店にいる。

人見知りの私が佐原君に普通に話しかけられる訳もなく、どう話しかけていいか迷っていたら一日が終わってしまっていた。

勿論そんな様子をバッチリ見ていたであろう向坂君は全く意外そうではなく、笑みを浮かべながら
珈琲を眺めていた。



「どう話しかければ良いか分からない?」


「しょ、正直言って、全く分からない、です…」


「んー…俺の予想だけど、佐原は裏がなくて素直で馬鹿な子が好きだと思うんだよね」


「……へ?」



いきなり何を言うんだろう。



「良い意味で子供っぽいタイプって言うのかな。そういうのが好きな男はいっぱい居るからね」


「そう、なの……?」


「うん。自立した女性より、その人がいなきゃ生きていけないって言う弱い女性の方がモテたりするしね」


「…………向坂君もそうなの?」



「さあ?俺は女の子みんな好きだから」



ニッコリと笑顔で言われた。

なんて嘘くさい笑顔なんだろうと思うけど、相変わらず綺麗な笑みで惚れ惚れとしてしまう。




「打算的なのなダメ。その作品を愛してるから話したいって感じを出さないと」


「む、難しいなぁ……」


「そう?雪平さんが話したい事を話せば良いよ。嘘をついてもすぐボロが出そうだしね」


「そ、それはそうだけど……」



うーん、と納得出来ない私に、彼は微笑みながら首を傾げてみせた。




「不安?」


「そりゃ……だって、話したい事話しても私なんかが佐原君と仲良くなれる訳ないし…」


「どうして?俺は雪平さんの性格好きなのに」



思わずバッと向坂君の顔を見つめると、蕩けそうな瞳で私を楽しそうに眺めていた。




「大丈夫だよ、雪平さんは十分魅力的だから」


「魅力、的……?私が……?」


「そう、魅力的。それに、もし失敗して佐原に嫌われたとしても、雪平さんには俺が居るんだから」



それでも不安?と優しく聞いてくる向坂君に、胸の中がポカポカと暖かい感情が湧き上がってくる。



「失敗しても、私と付き合っててくれるの?」


「勿論、俺は雪平さんのことが好きだから」



恍惚な笑みで私の望む言葉を言ってくれる向坂君。
夢なんじゃないかと思うぐらい幸せな気持ちだ。


そんな向坂君の、期待に応えたい。



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