腹黒王子とめぐるの耽溺日誌
隼瀬君は眉をひそめて苛立たしげに足を揺らした。
「そんなの分からないだろ?他人の事なんだから。それとも、お前はやった奴を知ってるって言うのか?」
「い、いや……ほら、他にも同じ中学の人いるじゃん?そっちはどうなのかなって」
「………いや、佐原以外覚えてない。佐原じゃないなら、俺が知らない奴がやってるって事になる」
そんなことある?
隼瀬君の言ってることが本当なら、立花の事を全く覚えてないって事だ。
「そ、そっか……」
「………なぁ……お前、なにをそんな知りたがってるんだよ」
「え?」
「言っとくけど、俺はそんな奴のことどうでもいいんだ。もう、疲れたんだよ。だから、お前もそんなの気にしなくて良い」
不安そうな目で私を見る隼瀬君に思わず面食らう。
別に隼瀬君の為に探ってる訳じゃないけど、彼からしたらそんな事情は分からない。
自分の為に躍起になってるんじゃないかって勘違いしてるのだろう。
「いや、それこそ私の心配は要らないよ。大丈夫、好きでやってる事だから」
「お前は、俺の周りの人間がどうなったか知らないからそんな事が言えるんだ」
「大丈夫大丈夫、なんとかなる、」
「なんとかならなかったらどうするんだよ!!」
唐突に大声を出す隼瀬君にビクッと肩を揺らす。
「お前だって他の奴と同じだろ!自分が不幸な目に合ったら、俺の事を捨ててどこかに行くんだ!!そうなるのが怖いんだよ…!」
「なにをそんな心配してるの……」
「なにってお前の……っ」
「心配しなくても怪我したぐらいで嫌いにならないよ。というか隼瀬君は悪くないし…」
「………」
呆れてものも言えないのか、隼瀬君は黙ったまんまだ。
イマイチ自分が危険な目に合うかもしれないって実感が湧かないんだよなぁ。向坂君が居るからかな?
「お前は究極的な馬鹿だ……」
「もし私が入院して会いに行けなくなったら見舞いに来れば良いじゃん。美味しいフルーツとお菓子とケーキを土産にさ」
「それ目当てだろお前」
「まぁせっかく怪我したなら欲しいじゃん」
隼瀬君なんてお金持ちなんだから結構良い物を持ってきてくれそうだし。
適当に話してただけだけど、隼瀬君はなんだかホッとしたような、安心したような顔をしていた。