腹黒王子とめぐるの耽溺日誌

別に、倉木さんの心配をしてる訳じゃない。

どちらかと言えば気に入らない性格をしてるし、何より恋敵だ。
向こうも同じ事を思っているだろう。

でも、彼女は"鏡"だとも思う。

彼女は私だ。なんなら、和泉さんだってそうかもしれない。

私の立場が、倉木さんになる可能性だってあるんだ。


『あぁ、彼女ね』


天気の話をするように、向坂君はなんでもないように言った。



『全部が終わる頃には俺のことなんて忘れてるよ。俺も彼女を忘れてるから』



「……え、」


『雪平さんは今まで通り、俺を好きで居てくれれば良いよ。それで全て上手くいくからさ』



そんな全部上手くいく事なんてあるんだろうか。

倉木さんはあんなに向坂君のこと好きなのに、忘れられるの?
それに、向坂君だって自分の為にここまでしてきた人のこと忘れられる?

分からない。何一つ分からない。

でも、向坂君の言う通りにしてたら上手くいくような気がする。


「うん……分かったよ」


『分かってくれたようで良かった。……あ、そろそろ電話切ってもいいかな?やりたい事があって』


「あ、ごめんね!いきなりかけて……」


『良いよ、久しぶりに雪平さんの声が聞けて良かった。また電話掛けてよ、雪平さんと話すの好きなんだ』



結局何も解決していない。
延命治療をされてるような気分だけど、今はそれでいいや。

だってこんな幸せなんだし。


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