腹黒王子とめぐるの耽溺日誌
あの後の授業は、全て頭に入ってこなかった。
私の頭の中は、どうやったら向坂君に捨てないで貰えるか、どうやったらまたあの関係に戻れるかと考えるのでいっぱいいっぱいになっていた。
立花京治の近道になるであろう佐原君に嫌われたと私は、もはや用済みとなるかもしれない。
6時間目が終わり、終礼の挨拶をした後だった。
帰りの支度をして席を立とうとすると、机を誰かに軽く蹴られた。
悪意がある程衝撃は強くはないが、たまたま当たったにしては明確な意図が感じられる衝撃に驚きながらも前を見ると、佐原君がガムを膨らませながら私をジッと見ていた。
「えっ……」
「おい」
「あ、はい」
驚きすぎてろくな反応も出来ない私に構わず、佐原君は鞄から漫画を出すとそれを6冊ほど私の机に無造作に置いた。
目をパチパチしながら一連の流れを見てると、佐原君は目を細めてニヤリと口角を上げた。
「お前超キモいから、これ多分好きだと思うぜ」
「……え?」
「明日までに読んでこい。ちゃんと読んできたら相手してやるよ」
「……いや、えっ!?!?な、なにそれ!!?」
まさかの展開だ。
思わず立ち上がり佐原君を呼び止めるも、イヤホンを付けてスタスタと帰ってしまった。
バッと向坂君の方を見ると、向坂君も予想外だったのか目を丸くして素直に驚いているようだった。
そして、私と目が合うと、面白い物を見るように笑みを深めた。
(ま、まだ、チャンスありって、こと……?)
机に無造作に置かれた漫画を大事に鞄に詰め、ゆっくりとガッツポーズを取った。