腹黒王子とめぐるの耽溺日誌
「御影と帰れば良いじゃないか。俺はこれから用事あるし」
「私は佳都と帰りたいって言ってんの!」
「今日はどれだけ粘られても無理。それと、俺に迷惑かける分には良いけど他の人は巻き込まないでね」
「はぁ!?!?朝はあの女が…っ!!」
「おら!さっさと消えろー!」
和泉さんの話の途中で、佐原君が和泉さんを扉の向こうに無理矢理追いやってくれた。
扉をピシャーン!と閉めて完全に拒絶すると、まだクラスに残ってた人達が「おおっ!」と言いながら佐原君にぱちぱちと拍手していた。
かくいう私もその一人だったけど。
「佐原ー!よくやったー!」
「俺はうるさい馬鹿な人間が一番嫌いなんだよ!向坂も俺にちょっとは感謝して欲しいもんだね」
「あぁ…佐原、ありがとう。皆もごめんな、彼女は悪い人じゃないんだけど、突っ走る所があるから…」
眉を下げて悲しそうに笑う向坂君は、客観的に見たら、ただの面倒な女子に絡まれた被害者のように見える。
事実、クラスの人は同情的な眼差しで向坂君に目を向け、優しい慰めの言葉をかけている人も居る。
倉木さんですら、向坂君の方に哀れみの目を向けているんだから凄い演技力だ。
皆は向坂君が彼氏持ちの和泉さんの家に行ったって事実、ちゃんと覚えてんのかなぁ…
「じゃあ、俺は帰るから。ついでにゴミがまだ扉の前に居ないか確認してやるよ」
佐原君は向坂君の事など全く眼中に無いのか、再び帰り支度を整え教室のドアを開けた。
そして、教室の前を確認してマルのハンドサインをすると「じゃ」と短い挨拶をしてそそくさと帰ってしまった。
(相変わらず自由だなー、佐原君)
友達が多い感じもしないけど、クラスでの評判が悪くないのはこういう自由気ままな性格だからだろうか。
「私もそろそろ行かないと…」
あんまり遅くなっても向こうに悪いし。
教科書と私の大切なノートを鞄に入れたことを確認し、私も教室を後にした。
教室を出る際に倉木さんと向坂君がなにかを話してるのを横目に見て。