腹黒王子とめぐるの耽溺日誌
家に帰ってからも、彼のことをノートに書き綴る。
どうせ私は彼の人生に関わることはないんだから、こうやって想いを書くのぐらい良いよね?
ノートに私の愛を書き並べていくと、彼に対する想いは着実に募っていった。
……そんな私の密かな想いが知られるなんて、思ってもみなかったけど。
いつも通りに授業が終わって、いつも通り、帰るはずだった。
「……ない」
私の大事なノートがない。
肌身離さず持っているはずのノートが、なぜか鞄の中になかった。
身体中から血の気が引いていくのが分かる。
あんな事が書いてあるノートが誰かに見られたら、私はそれこそ死にたくなる思いをするに違いない。
恥ずかしいなんてものじゃ、済まされない。
人目もはばからず急いで来た道を戻る。
落としたかもしれないと思って探しながら歩いても、ノートは見当たらない。
教室の机の中に忘れたのかな?
机の中なら誰かに見られる心配もない。
むしろ、机の中じゃない確率の方が少ないじゃないか。
そう思いながら教室に向かうけど、嫌な予感は一向に消えなかった。
それどころか、教室に近づくたびに冷や汗が頬を伝った。
自分の教室をゆっくりと開けると、私の机の上に誰かが座っていた。
「あ、雪平さん。これ、忘れてったでしょ」
片手に私の探していたノートを持ちながら、ヒラヒラと手を振る彼は、私の想い人の向坂君だった。
彼の綺麗な微笑みは、なぜか私を不安にさせる。
「……あ、そ、う……ごめんね、向坂君……」
「ううん、良いんだよ。雪平さんが取りに来ると思って待ってたんだ」
私のことをわざわざ待ってた?
それに、私の机に座りながら。
「そうなんだね、ありがとう……」
「にしても、知らなかったなぁ。雪平さんがこんなに俺のこと想ってくれてたなんて」
彼は美しい顔を歪めて、目を細めて笑った。