腹黒王子とめぐるの耽溺日誌
「間違ってるかもしれないんだけど、多分彼は無性愛者なんじゃないかなぁ」


「……"無性愛者"?」



聞き慣れない単語からか、向坂君は眉をひそめて怪訝そうに言葉を発した。



「女の子が好きという感じもしないし、かと言って同性が好きって感じもないんだよね。本当に恋愛感情が存在しない感じというか……」


「雪平さんが相手だからじゃなくて?」


「……む、そ、それは、私を女として見れないだけって言いたいの??」


「そんな事は言ってないじゃないか」



ニコリと笑う向坂君だけど、誤魔化してるようにしか見えない。
少しジトッと向坂君を見つめると、彼は話題を変えるように軽く咳払いをした。



「……まぁ、じゃあ仮に無性愛者だったとして。どちらにせよ、立花の話は佐原に直接雪平さんが聞くしかないよ?」


「ぐっ……ですよね……で、でも、話の切り出し方が……立花君の事をいきなり聞くのは不自然だし…」


「生徒会に興味があるって言えば良いじゃないか」



さも当たり前のように言う向坂君に、なんだかこっちが感心してしまう。
よくそんなすぐに話題の作り方が思い浮かぶものだ。



「確かに、それなら自然と話題に出せるかも…」


「ま、その話題を聞けたからと言って、立花の弱みが握れるとは限らないけどね」



そう言うと向坂君は机をトントンと指先で叩いた。


「連想ゲームみたいなもの、って言えば良いのかな…佐原が直接的な情報を言わなくても、佐原が出した"ヒント"が立花京治の秘密に繋がるんだよ」


「……もし、佐原君がなにもヒントをくれなかったら?」


「その時はその時だよ。連想ゲームみたいなものって言っただろ?立花京治と言えば〜って考えていけば自ずとなにか出てくるものさ」



顎に手をつき、楽しそうに笑う彼を見て少し違和感を覚えた。
彼は一応正義感から立花の悪事を暴きたいと考えてるはずなのに、全くそんな気配がない。

それどころか、本当にただ連想ゲームをしているだけのようにも感じる。

モヤモヤした感情が頭の中を覆うが、そんな感情とは裏腹に私はノートとペンを取り出していた。


(……向坂君って、考え事する時は指で机を叩くんだぁ……)


新たに知った一面をノートに書き記し、佐原君の機嫌が明日には直ってる事を祈った。
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