腹黒王子とめぐるの耽溺日誌
「直接的な言葉で言うなら、"美人局"をしろって頼んだんだよ」
「……つ、つつ、もたせ……?」
「そう、美人局。知らない?まぁ"ハニートラップ"とも言うかな」
「いや、知ってるよ。知ってる、けど……なんで谷口先生に……?」
「谷口は生徒会の顧問もしてるからね。立花がした事を揉み消すのに一役買ってるに違いないと思って」
ごくごく普通の事のように話す向坂君に、私がおかしいのではないかと錯覚してしまう。
向坂君は目を細め、更に笑みを深くした。
「雪平さんのノートを参考にしたんだ。谷口が倉木さんをよく見てる、ってね」
「……確かに、書いたけど……で、でも……そんな、美人局なんて……」
確かに立花の悪事を広めたいという気持ちは分からなくもない。
それでも、その為にクラスメイトの女の子に美人局をやらせるのは、本末転倒だと思う。
さっきとは正反対に意気消沈している私を見て、諭すように、雪平さん、と私の名前を呼んだ。
「倉木さんは喜んでやってくれるって言ってたよ?彼女は真面目だし、立花の事を許せないって言ってたから」
「……でも……もし、なにかあったらどうするの…?」
「なにも無いよ、"俺達には"。倉木さんは責任感が強い子だから」
違う。私は、別に自分のことを心配している訳じゃない。
もし、倉木さんが精神的に深い傷を負うような事があったらどうするつもりなの?って、そういう、話なのに。