腹黒王子とめぐるの耽溺日誌

「ふぅん、立花とねぇ」


「そうなんだよ、本当、緊張で死ぬかと思ったんだから…」



喫茶店のサンドウィッチをモグモグと食べながら報告すると、向坂君は機嫌が良さそうに笑みを浮かべた。



「……楽しそうだね、向坂君……」


「ん?うん。近づいてるって感じがするし」



向坂君の機嫌が良いのは素晴らしい事だけど、正直近付いてるって感じはあまりしない。

そりゃあ物理的には近付いたけど、まだ核心には迫れてない。



「……そう言えば、倉木さんはどうなったの?」


「あぁ。あんまり順調じゃないらしいね」



らしいねってどこか他人事だ。



「じゃあ、証拠とかはまだ掴めてないんだ」


「そうそう、結局、あとちょっとの所で帰っちゃったらしいし。倉木がもう少し強気な態度に出れれば、谷口だってバラされるのビビって証拠集めしたかもしれないのになぁ」



向坂君は困ったようにヘラっと笑うとわざとらしく溜息をついてみせた。

言ってることはクズそのものだが、その話を聞いて少しホッとする。

(倉木さん、ちゃんと拒絶出来たんだ)


最悪の展開は回避されたようで、多少は安心出来たというものだ。



「でも、このままじゃ進まないからね。倉木さんにはまた頑張って貰おうかな」


「む、無理だよ!一度目だって無理だったんだから、二度目だって、」


「無理だろうね。きっとまた途中までだと思う」



向坂君だって分かってるのに、ならなんで何回も同じ事をさせるんだろうか?

そんな私の考えを見透かしたように、口元に弧を描くと鞄の中からカメラを取り出した。



「だから、"俺達で"谷口が淫行教師だって証拠を撮れば良いんだよ」



綺麗にウインクをしてそう言う向坂君は、今まで見た中で一番楽しそうな顔をしていた。


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