腹黒王子とめぐるの耽溺日誌
「谷口先生……貴方のやった事は許されるべきじゃない。それこそ、教師をクビにされても仕方がない事だ」
「くっ……」
「だけど、"立花京治"のやった事はそれ以上の事だと思うんです。俺は谷口先生より、立花の方が裁かれるべきだと思う」
立花京治の名前を出した途端、谷口の顔色が更に真っ青に変わった。
「い、いきなり……いきなりなにを言ってるんだ向坂!立花の事なんて、僕はなにも…っ!!」
「知りませんか。そうですか……なら、残念だけど、貴方には学校を辞めてもらう事になるかもしれない。最も、それを決めるのは俺じゃなくて、保護者や学校の判断かもしれませんが」
向坂君は先程の人の良さそうな笑顔をスっと消し去り、無表情で谷口を見つめた。
無機物を見るように何の感情も持たない瞳は、谷口からしたら本気で自分を地獄に落とすつもりだと思ったのだろう。
ガクンと項垂れたように地面に座り込むと、ボソリと谷口は言葉を発した。
「…………なにが、目的だ……」
「……立花京治の"イジメ"や"犯罪行為''全ての情報を俺にください。そしたら、貴方のやった事は俺達の中だけに留めておきます」
「なぜ、立花の事をそこまで知っている……?彼のした事は表に出ないようになっているはずなのに…」
谷口の発言を聞いて、改めて立花が自分の悪事を揉み消しているのだと実感する。
倉木さんはその話を知らなかったのか、驚いた顔で向坂君を見つめていた。
(谷口は裏で立花が何をやっていたか知ってたんだ)
そうとなると、話がだいぶ進みそうだけれど、谷口は本当に向坂君の言う事を聞くんだろうか?
「なぜ俺が知ってるとか、そういう話はどうでもいいんですよ。貴方が立花の情報を俺に持ってくるのか、持ってこないまま地獄に落ちるのか。どっちが良いかって聞いてるんだ」
有無を言わさない口調に谷口は観念したのか、控えめにコクリと力無く頷いた。
「………分かった……立花の情報を教える……だから、この事は他の人には言わないで欲しいんだ…」
「勿論。話が分かる人で良かった」
目を細め満足気に笑う向坂君。
谷口はヨロヨロと立ち上がり、向坂君の方を向くと重たい口を開いた。