腹黒王子とめぐるの耽溺日誌
「うーん……だとしても、学校に来て!とか、顔が見たい!とかは書かない方が良いよね……?」
「まぁ、そういうのが多すぎると義務感が強くなるからね。仲良くなりたいんじゃなくて、ただ学校に来させたいだけなんだって勘ぐられるし」
そう言って向坂君は机を指でトントンとリズム良く叩き始めた。
「人見知りだったり壁を作りがちな子には、積極的に自分の情報を出していくと良いよ。自分の手の内を見せるじゃないけど、相手に"この人は自分になんでも話してくれる"って思わせる事が大事なんだ」
なるほど、と自分のノートにメモをとる。
「じゃあ、今まで通りに趣味の事とか、そういうのを書いていけば良いかな?」
「うん、それでいいと思うよ。あとは悩みとかを書いてみたら良いんじゃない?」
「な、悩みぃ?書いたとして隼瀬君が解決出来るかなぁ……」
「本当に悩みを解決してもらうってよりは、頼ってくれてるって事をアピールする事が目的だね。親近感が湧くと、向こうからも反応が返ってきやすくなるんじゃないかな?」
凄い。
私が出会ってきた中でここまで対人コミュニケーションが上手い人間は居ただろうか。
だから彼の周りに人が途絶えないんだろうなぁと心の中で思っていると、ピピピッとこの場に似つかわしくない電子音が鳴り響いた。
音が鳴っているのは向坂君のポケットからだった。
「ごめんね、ちょっと電話に出てきても良いかな」
「あ、うん。気にしないで行ってきて」
「すぐ戻るから」
ニコリと微笑むと、向坂君は席を立ち足早に外に出た。
ぼんやりと、笑顔で誰かと会話する向坂君を見る。
誰と話してるんだろ。友達とかな?
数分程誰かと会話をした後、向坂君は携帯をポケットにしまいながら再び喫茶店の中に入ってきた。