腹黒王子とめぐるの耽溺日誌
めぐるの遭遇
その日は、行くのが少し早い時間だった。
授業が5時限目で終わって、向坂君と話すことなくそのまま隼瀬君の家に向かった。
だから、向こうも油断していたのかもしれない。
「あ」
「………へ?」
大きな玄関前でメイドの人がノートを持ってきてくれるのを待っていると、後ろからヒュっと息を呑む音が聞こえた。
反射的に後ろを振り返ると、黒のスーツを着こみ、所謂"正装"と言われる格好をした青年が驚いた顔でこちらを見ながら立っていた。
「……な、んで……お前が居るんだ……」
「え?あ、あの……?」
「いつもはもっと遅いだろ」
途中までなんの話をしているのか全く分からなかった。
だけど、いつもはもっと遅い"という言葉で、目の前の人間が"隼瀬 雅"だと言うことが分かった。
(……確かに……ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ似てる……)
艶のある黒髪に中性的な顔立ち。
まだあどけなさが残る顔とは対照的に、スラッとしたモデルのような背格好。
そして、魔性とも言える美しい瞳。
顔が似てる訳じゃない。
ただ、人を狂わせるような魅力が二人にはあった。
呆然と隼瀬君を見つめる私に居たたまれなくなったのか、彼は聞いても居ない事を気まずそうに話し始めた。