腹黒王子とめぐるの耽溺日誌
「…………これは、父親の会社の親交パーティーで呼ばれたから着てるだけだ。普段から着てる訳じゃない」


「へ、へぇ……に、似合ってるね……?」


「…………」



気まずい。

別に毎日そんなバチバチに決めたスーツを着てるとは思ってないし、聞きたい事はそれじゃないんだけど、なんだか質問攻めにする空気でもない。



「あ、ノート……読んでくれた?あと、書いてくれた?」


「……書いた」


「へえ!じゃあ、メイドさんにノート貰ったら家でじっくり読まないとね」


「…………今、呼んでくる」



そう言って、彼は鉄の扉の中に入って行った。

それにしても無口というか、シャイというか。
インターホン越しの方がよっぽど喋っていたと思う。


しばらくして、鉄の扉からいつものようにメイドがノートを持ってきてくれた。



「いつもありがとうございます」



何の気なしにメイドの人にお礼をすると、美しい顔を少し歪ませて鋭い目付きで私を睨むように見た。


「貴女にお礼を言われるような事はしていません。それでは失礼致します」



お礼を言っただけで軽くキレられるって、どれだけ無愛想なメイドなんだろう。

ポカンと呆けた顔でメイドの後ろ姿を凝視していると、そそくさと鉄の扉の中に入って行ってしまった。


そして、視線の先をノートに移す。


(………返事書いてくれたって言ってたし、多分怒ってないよね)


結構ストレートな気持ちを書いた文章だったけど、彼からはどんな返事が書いてあるか。

逸る気持ちを押さえながら、ノートを両手で抱き抱えて家に戻った。

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