Ring a bell〜冷然専務の裏の顔は独占欲強めな極甘系〜
* * * * 

 吉村たちからの嫌がらせは続いたものの、三学期になると受験のため登校しない日が続いたこともあり、きちんと顔を合わせたのは卒業式の日が最後だった。

 杏奈は第一志望の国立大学に合格したが、高校から同じ学部に進学する人はいなかったためホッと胸を撫で下ろす。広大な広さの大学構内では、学部が違えば顔を合わすこともほとんどないからだ。

 もちろん楽しいこともあった三年間だったけど、きっとこれからも思い出されるのは不快な記憶の方が多いに決まってる。

 そしてようやくこの生活から解放される--そう思いながら昇降口を抜けて校門へ向かおうとした時、やけに騒がしいグループが目の前を歩いていることに気付いた。

 途端に胸が苦しくなり、歩みを止めてしまった。彼らが門を出るまで待つか、それとも勢いよく走り去るか--その時杏奈はハッとする。

 私、逃げることしか考えてない。

 この学校に来るのは今日が最後。彼らに会うことだってもうなくなる。それなのに最後まで下を向いて逃げ続けるの?

 ううん、もう逃げなくたっていいじゃない。私は何も悪いことはしていないもの。自信を持って、堂々と歩いていけばいいのよ。

 杏奈は深呼吸をすると、大きく一歩目を踏み出した。ふざけ合いながらゆっくりとしたペースで歩いているあのグループに、あっという間に追いついてしまう。

 心臓が大きく高鳴り、耳にまで到達する。息だって苦しい。それでも歩くのをやめなかった。
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