Ring a bell〜冷然専務の裏の顔は独占欲強めな極甘系〜
 視察を終えた後、高臣が先に車に戻って後部座席で待っていると、茅島がニヤニヤしながら運転席のドアを開けた。

「ほら、頼まれてたやつ」

 手に持っていたビニール袋を受け取り、袋の中身を覗き込みながら匂いを吸い込む。やっぱりあの時の香りだ。唐揚げなんてどれも同じと言われそうだが、でも彼女の店の唐揚げからは他とは違うスパイスのような香りを感じた。

「あの子、お前の知り合いなのか?」

 茅島は仕事上は高臣の部下という立場だが、実際は大学の先輩で、私生活では仲の良い先輩後輩だった。

「高校の時に好きだった子なんだ。まぁ嫌われていたから、彼女にとっては知り合い以下の扱いだろうけどね」
「えっ、あの子になんかしたわけ?」
「……吉村だよ。仲良しグループだと思われていたから、俺も同等の扱いなんだと思う」
「あの下衆野郎が絡んでいるなら、確かにそうかもしれないな」

 高臣は袋の中から唐揚げを取り出し、口の中に放り込む。あぁ、そうそう、この味なんだよ--ずっと求めていた味とやっと再会できた喜びど、先ほどの女性が碓氷杏奈だと確信が持てた幸福感に、高臣の頬は大きく緩んだ。

 その瞬間、高臣の中であの頃の感情が再燃し始める。碓氷さんとあの頃の隔たりなど取っ払って親しくなりたい。

 だけどその一歩は彼女から踏み込んでくれた。だからこそ二人きりで会う今夜が重要なのだとわかっていた。

「あっ、もう食べたのか?」
「あぁ、すごく美味しかったよ」
「そんな嬉しそうな顔しちゃって。まるで運命的な再会じゃないか」
「本当だな。俺もそう思うよ。吉村がいない環境、彼女は俺を知らないフリをしているし、今なら初対面の感覚で距離を詰められるかもしれない」
「……本気か?」
「もちろん。だけど"嫌い"という感情を"好き"に変えるにはどうしたらいいんだろうな」

 記憶に残るのは、いつも俺たちを睨みつけたあの目。もう二度とあんな風に見られたくはなかった。
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