Ring a bell〜冷然専務の裏の顔は独占欲強めな極甘系〜
* * * *

 お昼時の喧騒が薄れ、広場の人もまばらになってきた頃。キッチンカーに中から母親に声をかけられた。

「今日もありがとね。明日も仕事でしょ? もういいから、ゆっくり休んでね」
「もういいの?」
「十分助かったよ。ありがとな」

 父親も続けてそう言ったので、その言葉に甘えることにした。

 エプロンを外してカバンの中に突っ込むと、すぐに紗理奈に連絡を入れる。メッセージを送って十秒も経たないうちに、『イベント会場の外のカフェで休憩中』と返事が返ってきた。

 指示された店に行ってみると、窓際の席で手を振る紗理奈を見つけ、慌てて駆け寄っていく。

「ごめん! すごく待たせちゃったよね」
「大丈夫。丁度遅めのお昼ご飯を食べたところだから。デザートでも頼む?」
「いいね! そうしよう」

 メニューを見ながら、杏奈はミルクレープとアイスティー、そして紗理奈はチーズケーキとアイスコーヒーを注文すると、二人はテーブルに肘をついて顔を突き合わせた。

「珍しいよね、杏奈が内緒話なんて。おじさんとおばさんがいる前じゃ話せないようなこと?」
「……絶対に無理」
「土地のことなんだよね?」
「うーん……ちょっと複雑な事情が絡んで来ちゃって……」
「あら、なんか気になる。どんなことでも聞くから任せて!」

 杏奈は顔をくしゃっとさせて紗理奈に抱きつく。

「誰にも言えなくて悩んでたの。持つべきものは友だよ〜!」
「当たり前でしょ! 小学生の時からの仲じゃない」
「ありがとう……」

 朝からどこか気が張っていた。それがようやく解けたような気分になる。杏奈はホッとしたような気持ちで口を開いた。
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