Ring a bell〜冷然専務の裏の顔は独占欲強めな極甘系〜
「そうなの、わかってる。あんなに嫌いだった人なのに、こんなに簡単にしちゃうなんて自分でもおかしいって思うよ。でも……すごく優しくしてくれたから……」
「優しいなんてやりたい男の常套手段じゃない。で、杏奈はそれに流されちゃったわけね」
「うっ……それは否定出来ない」
「でもどうするの? これからもあの土地のことで会うこともあるでしょ? そのたびに杏奈を求めてくるかもよ。あのクラスの男は女にも苦労しなさそうだけど、利害が一致している女が目の前にいたら、絶対に手を出すに違いないわ」
「だ、大丈夫! もしそんなことになったらちゃんと拒む!」
「無理矢理押し倒すかもよ。男の力には女は敵わないんだから」

 それに関してはないような気がした。昨夜もなんだかんだ言いながらも、杏奈の気持ちを尊重してくれていたから。

「なるべく人がたくさんいるところで会うようにする!」
「そうだね、それが賢明かな」

 まさか今夜すでに約束が入っているとは言えなかったが、紗理奈が納得したので杏奈も頷く。

 今夜はレストランで食事だけと話してあるし、きっとそうはならないはず。何よりも、自分自身が彼をきちんと拒絶すればいいのだから。

「でもさ、最初の質問に戻るけど、本当に怒りとか不快感はなかったの?」
「……全くなかったわけじゃないよ。やっぱりあのことを私だって覚えているし、馬鹿にされている気がしたから怒ったのよ。抵抗もした。したんだけど……」

 二人は顔を見合わせる。

「あんなに嫌って言ってたのに、身持ちの固い杏奈をその気にさせたのは何なのかな……やっぱりテクニック?」
「お願い、恥ずかしいから言わないで。たぶん私が男性に対する免疫力がないからかも」
「まぁ杏奈って一人としか付き合ってないもんね」
「それに……あんなに何度も好きだとか愛してるとか言われたことないんだよ……。しかも高校時代は感情なんでないような人だったのに、なんか別人に見えたくらい甘過ぎて……」

 高校時代はあの人のことを冷たく感じていた。それが昨夜は彼からほと走る熱に、杏奈の体も熱くなってしまった。

「だからと言ってまだ騙されてるかもとか、遊ばれてるかもって考えは捨てていないよ。好きになる理由が見つからないわけだし、どう考えてもやっぱりおかしいって思うもの」

 確かに流されてしまったが、それでも杏奈がまだ警戒感を持っていることに紗理奈は安心したように頷く。

「そっか。でももし遊ばれたり脅されたりしたら、すぐに警察に行くんだよ」
「わかってるって」

 紗理奈が心から心配してくれているのがわかり、杏奈は胸が熱くなった。

「紗理奈ちゃんがいてくれて良かった。ありがとう」

 とはいえ、今夜会うということは口が裂けても言えない。紗理奈には黙っておこうと心に誓った。
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