Ring a bell〜冷然専務の裏の顔は独占欲強めな極甘系〜

6 本当のこと

 家に帰った杏奈は、シャワーを浴びてから身支度を整えようと鏡の前に立った。

 きっと彼のことだから、またドレスコードが必要なお店に行きそうな気がする。だが今は服の心配だけでなく、キスマークを隠す必要もあった。

 悩みに悩み、リボンタイがついたパフスリーブのシフォンブラウスとくすみブルーのややタイトなレーススカートを選んだ。

 これなら体を隠せるし、隙を見せない女にも見えるはず。

 その時に高臣の言葉がふと頭を過ぎる。

『心配なら着替え一式とメイク道具を持ってきた方がいいかもね』

 昨夜彼に与えられた熱を思い出し、頬が赤くなるのと同時に悔しさが込み上げて唇を噛み締める。

 私がまた流されると思っているのかしら。昨日はたまたまそうなってしまったけど、今日は絶対に食事を終えたら家に帰る。もう流されたりしないんだから。

 紗理奈と話したことで、少し冷静になって物事を捉えられるようになった。自分自身がこの展開に納得出来ていないのに、心を開くには早すぎる。

 大丈夫。ご飯を食べて話をするだけ。食べ終えた後にレストランのドアを開けて外に出たら、猛ダッシュで駅に向かおう--そう自分に言い聞かせながらメイクを済ませると、スマホを手に取り画面を開いた。指でスクロールさせ、表示された高臣の連絡先をしばらく見つめる。

 この名前が連絡先に入っているだけでも困惑するのに、今から由利高臣にメッセージを送って迎えに来てもらうだなんて、悪い夢でも見ているようだ。

 杏奈は意を決して、『準備が出来ました』とメッセージを打ち込んでから、躊躇いがちに送信ボタンを押す。

 するとすぐに既読がつき、『今から向かう。十分くらいで着くと思う』と返事が届く。

 それを見た瞬間、急に緊張感に襲われた。それは今までの怖さや嫌悪感とは違い、キュンと胸が苦しくなるような感覚。

 杏奈は大きく深呼吸をすると、荷物を持って家を出た。
< 42 / 88 >

この作品をシェア

pagetop