Ring a bell〜冷然専務の裏の顔は独占欲強めな極甘系〜
* * * *

 高臣の従業員へのスマートな対応を見ていると、彼がこのような店に来慣れていることが伝わってくる。

 彼が予約をしたのが個室で良かった。きっと周りに他の客がいるような場であったら、自分の所作に不安が生じて、食事どころではなかったかもしれない。

 ただ高臣がこの個室を選んだ理由はわかるような気がした。窓はなく、扉もきちんと閉められているので、ここでの会話は外には漏れないだろう。

 乾杯をしてから、杏奈がじっと高臣を見つめたので、彼は苦笑いをしながらグラスをテーブルに置いた。

「せっかく二人きりで食事なのに、甘い雰囲気には浸らせてくれないんだね」
「だってそれが条件だったでしょう? 何か進展があったのなら教えてほしいの」
「まぁその通りだけどね。いくつかわかったことはあるよ」

 杏奈は目を見開き、次の言葉を期待するかのように身を乗り出した。

「あの土地について提案されたのは一年半前だった。もうその頃には工事の閉鎖は決まっていて、うちの会社がショッピングモール建設の土地を探しているという情報を知っている人間がいたんだろう。ある人物が直接工場の跡地について話を持ってきたらしい」
「ある人物って……」
「それはまだ調べている途中だから、名前は伏せさせてくれ。とにかくその人物が持参した資料に記載されていた土地は、明らかに隣の土地も含まれていて、しかも日付が何故か杏奈の両親が立ち退き請求をされるよりも前だったんだ」
「つまり……土地を売るために立ち退きを請求したってこと?」
「まだ確定ではないからね。断言はしないよ。または既に土地は売られた後で、理由を偽って立ち退きを請求したか--理由は他にも挙げられそうだけど、このどちらかが有力であるとは思ってる。もう少し調べたいんだが、今日は日曜日だからね。平日しか出来ないこともたくさんあるんだ」
「だとしても、お願いしてから一日しか経っていないのに、もうこんなに調べてもらえただなんて……ありがとう」
「杏奈からのお願いだしね。それにすごく有能な部下がいてね、と言っても年上なんだけど、頼りになる人なんだ」

 高臣の表情が柔らかくなり、その人を心から信頼しているのだと伝わってきた。

「とにかく社内の人物が関わっているのか、それとも外部のことなのか、それらも含めてもう少し調査を進めるよ」
「ありがとう」

 そんな話をしていると、扉がノックされたため、二人は口を閉ざした。
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