Ring a bell〜冷然専務の裏の顔は独占欲強めな極甘系〜
 テーブルに並ぶ料理の香りに、杏奈はうっとりと目を閉じる。美味しそうな料理を前にして、腹の虫も悲鳴を上げた。

 それを聞いた高臣が吹き出したので、杏奈は恥ずかしそうに俯いた。

「し、仕方ないじゃない……すごく美味しそうなんだもの」
「いや、可愛いなと思っただけだよ。だからそんな君をこんなに近くで見られて嬉しいんだ」

 彼の視線を感じながら杏奈は料理を口に運ぶが、何故か緊張してしまい味わうどころではなくなる。

「あなたって、普段もそんなにお世話が上手なの?」
「仕事中のことを言っているのかな? それなら答えは"ノー"だ。どちらかと言えば、高校の時のままだと思う。社内では"冷然専務"と呼ばれているくらいだからね」
「冷然専務?」
「あぁ。無表情、無感情、まるで人に興味がなく見下しているようにすら見えるらしい」
「それは確かに高校の時のままかも」
「杏奈もそんなふうに思っていたのかい?」
「もちろん。私の目に映るあなたはいつも冷たくて、私なんてまるで存在していないかのような態度。私の名前すら知らないだろうって思っていたくらい」

 思い出すだけでもやはり胸が苦しくなる。その感情が根底にあるからこそ、高臣の言葉を疑いなく受け取れないのだ。

「だから今のあなたの姿に困惑してるのよ。騙されてるんじゃないかって、今でもビクビクしてる」

 由利高臣がこんなに優しいだなんて、未だ信じられない。

「もし俺が杏奈を騙していたら、とっくに正体を明かしているとは思わないのかい?」
「……長期戦の可能性だってあるじゃない」

 高臣は苦笑いをしながら背もたれに倒れた。

「君に信用してもらうまでが長期戦になりそうだよ」
「……それだけのことをしたからよ」
「そうだね。でもね、俺には杏奈に話していない秘密があるんだ」
「秘密?」
「そう。でもそれは切り札として持っていたいのが本心なんだけど--それを伝えないと信じてもらえないのかもしれないね」

 それは二人に関わることなのだろうか--杏奈は唇噛み締め、ゴクリと唾を飲み込んだ。
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