Ring a bell〜冷然専務の裏の顔は独占欲強めな極甘系〜

「一つ目のヒントは＂唐揚げ＂」

　杏奈の頭に昨日の出来事が思い出される。側近の男性が買って帰ったミニデリセットに唐揚げが入っていた。

「唐揚げ？　そういえば昨日も唐揚げがどうのって……」
「あぁ、すごく美味しかったよ。君のお父さんの唐揚げは絶品だね」

　あの唐揚げを作っているのは確かに父だったが、そのことを何故高臣が知っているのかが引っ掛かる。

　確かに同じクラスの子には話したことはある。だけで高臣とは同じクラスになったことはないから、彼がどこでその情報を知り得たのかがわからなかった。

　杏奈が更に頭を悩ませている様子を高臣は楽しそうに眺めながら、再び料理を食べ始める。

「まだわからないようだね。じゃあ次のヒントだよ。＂保健室＂」

　保健室－－その言葉を聞いた杏奈は、ようやくわずかな糸口を見つけた。

　高校時代、休み時間も勉強に充てていた杏奈は、週に一度だけ養護教諭と保健室で昼食を食べる時間が何よりの楽しみだった。

　というのも、先生は同じ特進Bクラスの出身だった上、杏奈と同年代の子どもがいる女性だったので、この学園の中では一番話しやすい大人だったのだ。

　水曜日のランチは特進Bクラスの女子数人も集まり、みんなでおかずやデザートを持ち寄って食べるスタイルで、中でも杏奈が持っていくおかずの盛り合わせは評判が良かった。

　でもそのメンバーに高臣はいないし、彼に関係のある人物へ含まれていない。だとしても、彼のヒントは確実にこのことを指しているはず。

「……三つ目のヒントは？」

　なかなか当てられない悔しさをグッと押し殺し、上目遣いで高臣を見上げる。すると高臣は不敵な笑みを浮かべて杏奈を見た。

「いいね、その目つき。あの頃を思い出す」
「……ただ睨んでるだけなんだけど。それで三つ目のヒントは？」

　彼が言うには、これで秘密の謎が解けるはず。

「三つ目のヒントは－－＂チョコレート＂」

　その途端、高校時代のある出来事が鮮明に呼び起こされた。

「えっ……ちょっと待って……まさかあなたが……？」

　現実を受け止めきれなくて、杏奈は戸惑いを隠せなかった。だってそれは養護の先生と杏奈だけの秘密だったから。