Ring a bell〜冷然専務の裏の顔は独占欲強めな極甘系〜
* * * *

 あれは高校三年生に進級してすぐのこと。その日は水曜日で、いつものように保健室に集まってみんなで昼食を食べていた。

 ベッドのカーテンが一つ閉まっているのが気になり、あまり大きな声は出さずにおしゃべりに花を咲かせる。

「あぁ、今日も杏奈ちゃんのお家の唐揚げが美味し過ぎる〜」
「でもこっちの卵焼きも絶品だよ!」
「本当? じゃあお父さんに伝えとく。きっと喜ぶよ〜」

 その時だった。カーテンの向こう側から盛大な腹の虫が鳴く音が響いたのだ。

 みんなは驚いたように手を止め、それからクスクスと笑い出す。

 養護の先生は苦笑いをしながらカーテンを覗き込み、中にいた人物と話したが、ため息をついてテーブルの方に戻ってくる。

「全然お腹は空いてないんですって」

 あんなに大きな音を鳴らしておいて? みんなは顔を見合わせて再び笑い出す。

 ただその人物が姿を現さないのは、ここにいるメンバーが外部入学の集まりだとわかっているからではないだろうか--内部生は親が要職についている場合が多く、プライドの高い生徒がよく見られた。

 お腹の音も聞かれたし、きっと外部生に姿を見られたくないのかな--そんなことを感じた杏奈は、いつもよりも早く皆を連れて保健室を後にした。

 そして保健室を出る時に、残っていた唐揚げと卵焼きを先生に手渡し、
「もし嫌じゃなければどうぞって渡してもらえますか? いらなければ処分していいので」
と伝えた。

 すると次の日、帰ろうとしていた杏奈は養護の先生に呼び止められ、保健室に立ち寄ったのだ。
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