Ring a bell〜冷然専務の裏の顔は独占欲強めな極甘系〜
1 急転直下
どうしてこうなったんだっけ--杏奈は壁際に追い込まれ、ゴクリと唾を飲み込んだ。いろいろなことが重なりすぎて、頭がパンク寸前だった。
男は杏奈の顎を指で上げさせると、不敵な笑みを浮かべる。
「あの碓氷杏奈さんが、まさかこんなに美人だったとは驚きだな」
その瞬間、杏奈の顔は驚きに歪み、唇をキュッと結んだ。
自分で言うのも気が引けるが、確かにあの頃からは想像が出来ないほど変わったと思う。髪は茶色く染め、長めの髪をゆるく巻くのが好きだった。メガネはコンタクトにしたし、服装だってきれいめパンツスタイルを基調としてコーディネートをするようにしていた。
『今の杏奈ちゃんなら、きっと誰も気付かないと思うよ』
と友人に言われたこともあり、絶対に気づかれない自信があったのだ。
たとえ中身があの頃とさほど変わっていなくても--そう思っていたのに、この男には見破られてしまった。
「卒業式の日に君が言い放った言葉、覚えているかい? 『あなたたちはきっとすぐに私のこと薄い記憶の中で忘れるでしょうね。でも私はあなたたちのことを一生覚えていてやるわ』って」
なんでこの人はそんなことを覚えているのだろう--逃げようとした途端、両手を男の左手に掴まれ、頭の上で壁に押し付けられる。
「もちろん覚えているけど……!」
それはもう二度と会いたくないあのグループメンバーへの、私なりの本音。そしてある意味呪いを込めた捨てゼリフ。
足の間に男の膝を押し込まれ、緊張で体が強張った杏奈は身動きが取れなくなる。どうして今日に限ってスカートなんて履いてきたんだろう--閉じたくても閉じられない足の隙間から、弱気になりかけている感情を暴かれてしまいそうで不安になる。
大学時代に付き合った人はいたけど、社会人になってからは仕事だけに邁進してきた。壁ドンも顎クイも、ましてやこんな体勢になるのも初めての経験で、まさかそれをこの男にされるとは思っていなかった。
様々な意味の緊張感を覚えながらも、自由を奪われたこの状態でこれから何が起きるのか、そしてどうすればいいかいいのかはっきりと決めることが出来ず、杏奈は黙って口を閉ざす。
「俺が覚えていないと思ったのか? むしろあんなに鮮明な記憶を植えつけられたのに、忘れろという方が無理な話だな」
「そ、そんなことは私には関係ないし……でもあなたたちがやった行いを忘れていないのなら、私の言葉が効いたってことで喜ぶべきなのかもしれないわ」
その言葉は杏奈の本心だった。忘れられるよりは、記憶の片隅にでも残って、自分たちの行いを反省してほしかったから。
だが今の状況は反省とは明らかに違っている。何故かわからないが、彼からは欲望に飢えたオオカミのような匂いがした。
それに--彼の視界に入り、彼の視線に捕らえられていることに胸が熱く高鳴る自分がいることも否定出来なかった。
男は杏奈の顎を指で上げさせると、不敵な笑みを浮かべる。
「あの碓氷杏奈さんが、まさかこんなに美人だったとは驚きだな」
その瞬間、杏奈の顔は驚きに歪み、唇をキュッと結んだ。
自分で言うのも気が引けるが、確かにあの頃からは想像が出来ないほど変わったと思う。髪は茶色く染め、長めの髪をゆるく巻くのが好きだった。メガネはコンタクトにしたし、服装だってきれいめパンツスタイルを基調としてコーディネートをするようにしていた。
『今の杏奈ちゃんなら、きっと誰も気付かないと思うよ』
と友人に言われたこともあり、絶対に気づかれない自信があったのだ。
たとえ中身があの頃とさほど変わっていなくても--そう思っていたのに、この男には見破られてしまった。
「卒業式の日に君が言い放った言葉、覚えているかい? 『あなたたちはきっとすぐに私のこと薄い記憶の中で忘れるでしょうね。でも私はあなたたちのことを一生覚えていてやるわ』って」
なんでこの人はそんなことを覚えているのだろう--逃げようとした途端、両手を男の左手に掴まれ、頭の上で壁に押し付けられる。
「もちろん覚えているけど……!」
それはもう二度と会いたくないあのグループメンバーへの、私なりの本音。そしてある意味呪いを込めた捨てゼリフ。
足の間に男の膝を押し込まれ、緊張で体が強張った杏奈は身動きが取れなくなる。どうして今日に限ってスカートなんて履いてきたんだろう--閉じたくても閉じられない足の隙間から、弱気になりかけている感情を暴かれてしまいそうで不安になる。
大学時代に付き合った人はいたけど、社会人になってからは仕事だけに邁進してきた。壁ドンも顎クイも、ましてやこんな体勢になるのも初めての経験で、まさかそれをこの男にされるとは思っていなかった。
様々な意味の緊張感を覚えながらも、自由を奪われたこの状態でこれから何が起きるのか、そしてどうすればいいかいいのかはっきりと決めることが出来ず、杏奈は黙って口を閉ざす。
「俺が覚えていないと思ったのか? むしろあんなに鮮明な記憶を植えつけられたのに、忘れろという方が無理な話だな」
「そ、そんなことは私には関係ないし……でもあなたたちがやった行いを忘れていないのなら、私の言葉が効いたってことで喜ぶべきなのかもしれないわ」
その言葉は杏奈の本心だった。忘れられるよりは、記憶の片隅にでも残って、自分たちの行いを反省してほしかったから。
だが今の状況は反省とは明らかに違っている。何故かわからないが、彼からは欲望に飢えたオオカミのような匂いがした。
それに--彼の視界に入り、彼の視線に捕らえられていることに胸が熱く高鳴る自分がいることも否定出来なかった。