Ring a bell〜冷然専務の裏の顔は独占欲強めな極甘系〜
* * * *

「思い出した?」

 高臣の声でハッと我に返る。彼は優しい笑顔で杏奈を見つめている。

「あれってあなただったの……?」
「あぁ、そうだよ。意外だったかい?」
「はっきり言って、あなたの可能性を考えたことなんて皆無だわ」
「だろうね。でもあの頃の俺からすれば、むしろその方が良かったよ。冷たくて、何に対しても無関心の俺が、まさか碓氷杏奈の唐揚げに夢中なんて口が裂けても言えないからね」

 頭の中で、高校生の高臣が唐揚げにかぶりつくシーンを想像し、思わず吹き出してしまった。

「確かに似合わないわ……」

 杏奈が笑いを堪えていると、高臣は口の端を引き攣らせて笑顔を作る。

「その笑い方は引っ掛かるが、まぁそういうことだよ。君たちのお喋りはなかなか興味深かったし、唐揚げは美味しかったし、俺も水曜日はなかなか楽しい時間を過ごさせてもらった」
「まさかあのお喋りを聞いてたの?」
「あぁ、ちょうど水曜日のお昼時間に何故か腹が痛くなるんだよ。だからベッドに寝かせてもらっていたんだ」

 そんな都合良く腹痛が来るはずはない。高臣がお喋りを聞くために、計画的に保健室に忍び込んだのは明らかだった。

「し、信じられない! 盗み聞きするなんて!」
「でもおかげで、杏奈がチョコレート好きってことも知れたわけだし」

 あのチョコレートは一応私の好みのものを選んでくれていたのか--そう思うと、胸がとくんと高鳴った。

「唐揚げとお喋りを通じて杏奈を知って、君が気になり始めた。でも吉村と杏奈は犬猿の仲だし、きっと俺のことも嫌っているに違いない……そう思っていたから、杏奈を直視出来なかった」

 吉村という名前を聞くと、未だに胸が苦しくなる。しかし今頭の中を占めていたのは、その後ろで壁に寄りかかる高臣の姿だった。

「じゃあ目が合わなかったのって……」
「杏奈に睨まれるくらいなら、目を合わさない方がいいに決まってる」
「そんな……」
「杏奈が嫌な思いをしているのはわかっていたから、吉村を引き離すためにあいつに声をかけ続けたんだ。杏奈は気づいてなかったと思うけどね」
「えっ……あれって私のためだったの?」
「なんだと思っていたんだ?」
「いや、本当にただ面倒臭いのかなって……」

 高臣は頭を抱えて大きなため息をついた。
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