Ring a bell〜冷然専務の裏の顔は独占欲強めな極甘系〜
「いつか目が合ったら……保健室で屈託なく笑う君の笑顔が見たいと思っていた。そんな日は来なかったけどね」

 そう言って寂しげに笑った高臣は嘘をついているようには見えなかった。ということは、彼は本当にそれを願っていたということだろうか。

 私はどうだった? 杏奈は考える。高臣と目が合わなくて悔しかった。でも待って。どうして悔しかったの? それは彼に自分が認識されていなかったから--逆に言えば、認識してほしかったの? その感情の正体は一体何なのだろう……。

「杏奈が好きなんだ……」

 そう言われたびに胸がキュンと苦しくなって、体は熱くなる。まるで甘い毒に冒されているみたい……じわじわと体が溶けていくような感覚。奥の方で彼を感じたがっている自分がいるのに、一生懸命否定しようとする自分もいた。

 この甘い毒に身を任せてみたらどうなるんだろう--毒に冒されてみたい欲望が沸々と湧いてくる。

 すると杏奈は体の力を抜き、高臣にされるがままになってみた。口から発せられる甘い言葉を受け取り、彼が与えてくれる刺激に素直に反応してみる。

 唇も指も舌も、どこもかしこも愛に溢れ、杏奈を満たしてくれた
 
 高臣の手がブラウスの裾から肌の上を滑って、胸に到達した。

「ちょっ……服は……」
「脱がせていないだろ?」

 その通りだ。服は脱がされていない。ニヤッと笑った高臣のイタズラっぽい笑顔が急に愛しくなり、杏奈は彼の首に抱きつきキスをした。

 高臣が驚いたように目を見開いた瞬間、スマホのタイマーが鳴り響いた。

 二人はハッと我に返り、息を切らしながらゆっくりと離れる。しばらくみつめあったが、その間も衝動を抑えるのに必死だった。

「五分経ったね……。さぁ、返事は決まったかな?」

 離れてしまうと近づきたくなった。もう一度キスをして、彼の息遣いを感じたくなる--身体中を甘く満たしてほしいと願ってしまった。

 もう答えは出ているじゃない--杏奈は高臣の目をじっと見つめると、
「流されたんじゃなくて、自分で決めたことだから……」
と呟いてから彼の首に抱きつく。

「だから続けてほしい」

 その瞬間、二人の唇が重なり合い、互いを強く抱きしめた。
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