Ring a bell〜冷然専務の裏の顔は独占欲強めな極甘系〜
* * * *

 宣言通り徹底的に愛し尽くされた杏奈は、二日連続ということもあり、クタクタで動けなくなる。

「こんなの初めて……身体中がガクガクしてる」

 そんな杏奈を高臣は優しく抱きしめ、クスクスと笑った。

「俺もこんなに夢中になったのは初めてだよ。好きな人を抱けることがこんなに幸せなことだとは知らなかった」

 高臣は杏奈に軽いキスをすると、髪をそっと撫でる。

「愛してるよ……」

 そう言われて嬉しいはずなのに、同じ言葉をまだ自分の口から発することは出来ず、杏奈は下唇を噛んで俯いた。

 高臣はそれを察したように微笑む。

「無理しなくていい。昨日から怒涛の展開だってわかっているから、今はとりあえずお試し期間と考えよう。君が俺を『愛してる』と思えたら、その時に言ってくれるかい? そこから正式に付き合えばいい」
「……そんな都合の良い選択をしてもいいの?」
「当たり前じゃないか。自分が強引なことをしてる自覚はあるからね。俺にとってはこうして杏奈がそばにいるだけで奇跡なんだから」
「うん……ありがとう」

 YRグループの専務が彼氏だなんて、絶対に人には言えない。ましてや紗理奈に話せば、また流されたんじゃないかと問いただされるに違いない。

 これは大変なことになったわ--悩みの種は尽きない。

 それに昨夜の会話で少しだけ気になることがあった。そのことが高臣への気持ちにほんの僅かだがストップをかけた。

 自分の中に留めておこうか、それともちゃんと聞くべきか--すると高臣が小さな笑みを浮かべる。

「本当にあの頃のままだね。言いたいことがあるなら言っていいんだよ」
「えっ、なんか変な顔してた?」
「あぁ。言いたいことをグッと堪えている時の顔。吉村にいろいろ言われた時も、いつもこうやって眉間に皺を寄せて、唇を噛み締めて俯いていた」

 高臣は杏奈の顎を指先で持ち上げ、そっと唇を塞いだ。それから唇を舌でなぞり、再びキスをする。

 その心地よさにうっとりと目を閉じ、力が抜けていくのを感じた。"愛してる"という気持ちはまだ追いついていなくても、友人としてなら信頼出来る距離まで近付いている実感はあった。
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