Ring a bell〜冷然専務の裏の顔は独占欲強めな極甘系〜
「もしかしてデザートメニュー、ここの栗を使うつもりなのかい?」
「えっ⁈ い、いえ、今ちょうど探している途中で……」
「いや、僕も気になっていたんだよ、佐久間農園。この間雑誌で見てね、若いのに熱心に取り組んでいるよね。家族もいるみたいだから、女性だけでなくファミリー層の獲得にもいいかもしれないよ」
「で、でも……」

 杏奈と鈴香が困ったようにあたふたするのを見て、
「よし、じゃあ私から問い合わせてみるよ。心配しないで待ってなさい」
と、やけにやる気になってしまった課長を止めることが出来なかった。

 鈴香は青ざめた顔で杏奈を見つめる。

「先輩! すみません……というかどうしましょう⁈」
「ん? 別に大丈夫だよ。あの別れ話のメールとかは、確かにムカついたけどね、今はなんとも思ってないし」

 なんとも思っていない--そんなわけはなかったが、鈴香を安心させるためにもそう言ってみり。それが功を奏し、あまりにも焦っていないように見えたのか、鈴香はキョトンとした顔で瞳を瞬かせる。

「そうなんですか……?」
「うん、もっと嫌な記憶もあるし、それに比べたら全然気にならないよ。ほら、家族もいるみたいだし、全く未練ないし。課長が動いてくれるみたいだし、決まったらラッキーだね!」

 すると今度は目を細めて、どこか疑わしげな表情で杏奈の顔を覗き込んだ。

「どうかしたの?」
「いえ……ここのところずっと思っていたんですけど……」

 カバンから水筒を取り出して一口含んだ瞬間、
「先輩、彼氏出来ました?」
と問いかけられ、お茶を吹き出しそうになる。

「な、なんで⁈」
「いえ、なんか最近の先輩、すごく余裕があるというか……それにやけに腰つきが色っぽい気がするし、肌もツヤツヤだし、キレイになりましたよね。それってやっぱり彼氏効果じゃないかと思って」

 なんて観察眼だろう--杏奈は驚きと恐怖を感じながら苦笑いをする。しかしその対応を見た鈴香は、顔をぱっと赤らめる。

「やっぱりそうなんだ! 誰ですか? どんな人ですか⁈」
「す、鈴香ちゃん! 今は仕事中だから後にしましょう! じゃないと合コン行けなくなっちゃうよ!」

 合コンという言葉が効いたのか、鈴香がぴたりと動かなくなる。きっと頭の中で様々な計算が行われているに違いない。

「……わかりました。じゃあランチタイムに根掘り葉掘り聞きますから覚悟してください!」

 とりあえず鈴香の気持ちを変えたものの、杏奈ランチタイムが怖くなった。
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