Ring a bell〜冷然専務の裏の顔は独占欲強めな極甘系〜
* * * *

 今日のランチは、会社近くの居酒屋がやっている定食にした。ほとんどの席が半個室のため、話し声も気にならない。この雰囲気が好きで、二人はよくこの店を使っていた。

「えっ、付き合ってまだ三週間なんですか?」
「うん、そうなの。たまたま……その……高校の同級生と再会してね、なんとなく付き合いことになっちゃったんだ」
「なんでそんな他人事みたいな言い方なんですか⁈ しかも高校の同級生ってことは、やっぱりいいところのお坊ちゃんだったりします?」
「んー……とうかな。そこそこかな?」

 相手がYRグループの専務なのだから、そこそこなんて言い方は失礼だとわかっているが、ここで名前を出すわけにはいかない相手だということは重々わかっている。

 なんだか秘密の恋愛をしてるみたい--そんなことを考えて、杏奈の頬が赤くなる。

「いいなぁ。きっと先輩のことだから、好きだって言われて交際が始まったんじゃないですか?」
「わっ、なんでわかるの?」
「先輩って恋愛に対して全然積極的じゃないからですよ。相手を自分から探しに行こうとしないし、恋人がいないならそれでいいみたいな感じだし。彼氏さん、相当猛アタックしたんじゃないかなって思って」

 そう言われると、確かに押しの強い面はある。だが杏奈の意見を無視したことはないし、見た目からは想像出来ないくらいの優しさを持っていた。

「確かに恋愛しなくても生きていけると思っていたかも。それに男って信用できない気がしていたし」
「やっぱり」
「でも……そんな私の気持ちを変えたんだから、なかなかの人よね」
「そう思います」
「でも最終的に彼を受け入れるって決めたのは自分自身だしね。今も先のことを考えるよりも、今をただ生きてる感じが強いかなぁ」
「えっ、結婚とか考えてないんですか?」
「……だってまだ三週間だし」
「この男を逃さないぞ! みたいな感覚もないんですか?」
「……むしろ逃げたかったくらいだけど」
「あぁ、それが告白された側の余裕なんだろうなぁ。私には持ち合わせていないものですよ」

 鈴香は大きなため息をついた。
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