Ring a bell〜冷然専務の裏の顔は独占欲強めな極甘系〜
* * * *
杏奈の両親は立ち退き通知書通りに店をたたみ、その後はキッチンカーを購入して再び弁当屋を始めた。自宅を改装することも考えたが、これからはいろいろな場所に出向いてみようという両親の考えが一致し、その形をとることになったのだ。
普段はオフィス街や公園、ショッピングモール。時々イベントにも参加をしたりと、両親は新しい生活スタイルを楽しみ始めており、休日には杏奈も二人の手伝いをしに行くこともあった。
そんな時、小学校の頃から仲良しの友人である紗理奈と久しぶりに会った杏奈は、衝撃の事実を聞かされる。
「杏奈のご両親がやっていたお弁当屋さんがあったところに、今度ショッピングモールが出来るんだって」
「えっ……ちょっと待って。工場の跡地に出来るんじゃないの?」
「私も最初はそう思っていたんだけど、説明会に参加したお父さんが持ってきた計画書には、あの長屋部分も含まれていたって」
休日の昼下がり。カフェに入ってランチプレートを注文した直後の急転直下。
杏奈は驚きのあまり目を見開いた。だってあそこは取り壊したら新しいアパートが建つと言っていた。それが何故ショッピングモールの一部になるということになっているのだろう。
それから紗理奈は身を乗り出し、杏奈にだけ聞こえるような声で、
「しかも今店舗を増やしてきているYRグループのショッピングモールの新店舗なんだって」
と囁く。
その瞬間、杏奈の顔色が変わった。眉間に皺を寄せ、唇をギュッと噛み締める。
「YRグループですって……?」
「そうそう。杏奈が大嫌いな由利高臣がいるYRグループよ」
頭の中に高校時代の記憶が蘇り、何に対しても興味がないような、無関心で面倒臭そうな表情の由利高臣の姿が頭に浮かぶ。
最後に奴らにギャフンと言わせたし、苦い思い出だけではない。それでもあの男の顔だけは何故か忘れられずにいた。
吉村の人を小馬鹿にしたような表情は思い出しても反吐が出る。だけど杏奈のことを一切視界に入れなかった由利の顔を、どうしてこんなにも鮮明に覚えているのか理由がわからなかった。
あの男が親の七光りだけでなく、若いながらに実績を上げ、今YRグループの専務にまで上り詰めていることを、たまたま読んだビジネス雑誌に記事が掲載されたいたから知っていた。
あの頃と変わらず洗練された顔立ちを見て、きっと今も彼に憧れる女性は多いだろうと感じた。
でもみんなはこの男がどれだけ冷たくて人に興味のがない人間が知っているのかしら--雑誌の中の由利高臣の視線も、一枚だってこちらを向いていないのだから。
彼の視線を捕らえることの出来る女性が現れたのなら、それは奇跡に近いだろう。
杏奈の両親は立ち退き通知書通りに店をたたみ、その後はキッチンカーを購入して再び弁当屋を始めた。自宅を改装することも考えたが、これからはいろいろな場所に出向いてみようという両親の考えが一致し、その形をとることになったのだ。
普段はオフィス街や公園、ショッピングモール。時々イベントにも参加をしたりと、両親は新しい生活スタイルを楽しみ始めており、休日には杏奈も二人の手伝いをしに行くこともあった。
そんな時、小学校の頃から仲良しの友人である紗理奈と久しぶりに会った杏奈は、衝撃の事実を聞かされる。
「杏奈のご両親がやっていたお弁当屋さんがあったところに、今度ショッピングモールが出来るんだって」
「えっ……ちょっと待って。工場の跡地に出来るんじゃないの?」
「私も最初はそう思っていたんだけど、説明会に参加したお父さんが持ってきた計画書には、あの長屋部分も含まれていたって」
休日の昼下がり。カフェに入ってランチプレートを注文した直後の急転直下。
杏奈は驚きのあまり目を見開いた。だってあそこは取り壊したら新しいアパートが建つと言っていた。それが何故ショッピングモールの一部になるということになっているのだろう。
それから紗理奈は身を乗り出し、杏奈にだけ聞こえるような声で、
「しかも今店舗を増やしてきているYRグループのショッピングモールの新店舗なんだって」
と囁く。
その瞬間、杏奈の顔色が変わった。眉間に皺を寄せ、唇をギュッと噛み締める。
「YRグループですって……?」
「そうそう。杏奈が大嫌いな由利高臣がいるYRグループよ」
頭の中に高校時代の記憶が蘇り、何に対しても興味がないような、無関心で面倒臭そうな表情の由利高臣の姿が頭に浮かぶ。
最後に奴らにギャフンと言わせたし、苦い思い出だけではない。それでもあの男の顔だけは何故か忘れられずにいた。
吉村の人を小馬鹿にしたような表情は思い出しても反吐が出る。だけど杏奈のことを一切視界に入れなかった由利の顔を、どうしてこんなにも鮮明に覚えているのか理由がわからなかった。
あの男が親の七光りだけでなく、若いながらに実績を上げ、今YRグループの専務にまで上り詰めていることを、たまたま読んだビジネス雑誌に記事が掲載されたいたから知っていた。
あの頃と変わらず洗練された顔立ちを見て、きっと今も彼に憧れる女性は多いだろうと感じた。
でもみんなはこの男がどれだけ冷たくて人に興味のがない人間が知っているのかしら--雑誌の中の由利高臣の視線も、一枚だってこちらを向いていないのだから。
彼の視線を捕らえることの出来る女性が現れたのなら、それは奇跡に近いだろう。