Ring a bell〜冷然専務の裏の顔は独占欲強めな極甘系〜
* * * *

 仕事の話は鈴香と課長が中心となって進めていたので、杏奈は時々補足をする程度で済んだ。

 先日の合コンが上手くいかなかったらしい鈴香は、翌日から今日に向けての準備をしっかりと進めてきた。その甲斐あって、鈴香は質問にも落ち着いて対応が出来ていた。

『私が先輩を守りますから!』

 あの言葉が嘘ではなかったと実感して嬉しくなる。

 佐久間はというと、時々杏奈のことをチラチラと見ている視線を感じていたが、必要以上の接触を避けたかったこともあり、気付かないふりをした。

 そして打ち合わせも終わりに近づいた頃、課長が佐久間に対しいろいろな質問を始めたのである。

「そういえば佐久間さん、お子さんがいらっしゃるんですよね? おいくつなんですか?」

 すると佐久間は杏奈に視線を送ってから、口籠もったのだ。

「えっと……六歳と四歳の二人です」
「へぇ、性別は?」
「男の子です。やんちゃな盛りでして……」
「あぁ、うちも同じだからわかりますよ」

 子どもか--家族がいると言っていたし、想定内だった。ただその時に妙な違和感を感じた。私と別れたのが六年前。でも一番上の子の出産も六年前。これでは時系列がおかしなことになる。

 その時にハッとした。これってもしかして……私と別れた時に、既に奥さんは妊娠していたということではないだろうか。

 それはつまり私は二股をかけられていて、だから別れるために、連絡をとらなくなった--杏奈の中に生まれた疑惑が、一つの仮説として現実味を帯びていく。

「先輩?」

 鈴香に声をかけられ、はっと我に帰る。打ち合わせが終わったことに気付かず、考えに耽ってしまっていた。

「大丈夫ですか?」

 鈴香の大丈夫には、きっと佐久間のことが含まれているに違いない。あの仮説が現実のものであれば、納得はいく。ただもし自分が騙されていたのであれば、心のダメージは大きい気がした。

「大丈夫。じゃあ私は先に戻るね」

 佐久間も帰る支度をしていたので、杏奈は彼より先に部屋を出ようとしたが、一歩遅かった。

「碓氷さん! あの、少し話があるんですが、いいですか?」

 しかしそこへすかさず鈴香が飛び込んで来る。

「仕事のお話ですか? でしたらリーダーの私を通してからでお願いします!」
「仕事……ではないので……」
「申し訳ありませんが、でしたらメールでお願いします。私も打ち合わせが詰まっていますから」
「……わかりました」

 佐久間は気まずそうに頭を下げると、会議室から出ていった。

「鈴香ちゃん、助かったよ」
「やっぱり『久しぶり〜』ってわけにはいきませんでしたね。でもいいんですか? 佐久間さん、何か話したそうでしたけど」

 杏奈は首を横に振った。

「もう関係ないしね。今更って感じかな」

 彼が何を話そうとしているかはわからないが、ただの言い訳を聞くほどの余裕は持ち合わせていなかった。
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