Ring a bell〜冷然専務の裏の顔は独占欲強めな極甘系〜
「な、何……⁈ やめてください!」
「あの頃……仕事をはじめたばかりでしんどくて……だからつい出来心で研修で一緒になった子と関係をもったんだ……。そうしたら--」
「……相手が妊娠した?」

 声を荒げてしまうかと思ったが、自分が考えていたよりも毅然と話が出来ていることに驚いた。

 佐久間は頷くと、額をずっと地面につけたまま顔を見せない。面と向かって話すこともできないなんて、逆に誠意を感じられなかった。

「それならそうやって言えば良かったのに……何も理由を言わずに、連絡がなくなって一方的に別れを切り出すなんて、ただ逃げただけじゃない」
「本当にごめん……何回でも謝る。許してくれとは言わないけど……どうしても謝りたかったんだ」

 許してくれなくてもいいのなら、一体なんのために謝るのだろう。彼の気持ちが晴れたとしても、行き場をなくした私の気持ちはどうなるのだろう--悔しくて唇を噛んだその時、急に背後から肩を抱きしめられたのだ。

 この力強さと香水の匂い--杏奈は体の力が抜けるような感覚に陥った。

「ただ謝りたいだと? 自分勝手にも程があるな」

 驚いて見上げてみると、そこには怒りと冷たさが入り混じった様子で佐久間を睨みつける高臣がいた。

「高臣くん……? どうして……」
「車で通りかかったら杏奈の姿が見えたから、慌て
て飛んできたんだ。とはいえ、少し状況を観察させてもらったけどね」

 今にも泣きそうな顔の杏奈を安心させるように、高臣は彼女の頭を撫でる。

「だ、誰ですか? 私は杏奈と話を……」
「もう付き合ってもいない女性を名前で呼び捨てにするのはおかしいでしょう。それに聞いた話ではあなたから別れ話をしたんですよね。ならば尚更彼女を気遣うべきではありませんか?」

 高臣が杏奈の関係者だと察したのか、佐久間は一度怯んだ。
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