Ring a bell〜冷然専務の裏の顔は独占欲強めな極甘系〜

エピローグ

 この日は久しぶりに、ベリが丘のホテルに泊まることになっていた。

 再会した日から一年の記念日ということで、高臣がサプライズで準備していたのだ。

 偶然なのか、わざとなのか、部屋はあの日と同じ場所だった。

 杏奈は部屋に入るなり、バルコニーに向かって歩き出す。

「あの日は話をするつもりだったから、ちゃんと部屋を見ていなかったの。でもここって全室オーシャンビューなんでしょう? もったいないことをしちゃったなってずっと思ってた」

 今は夕方。海に沈んでいく夕焼けを見ながら、杏奈は感嘆の声を上げた。海が真っ赤に染まり、水面がキラキラと輝いている。

「すごい……! 本当にキレイね……」

 バルコニーの柵に寄りかかり、うっとりと海を眺める。その背後から高臣が彼女の体をギュッと抱きしめた。

「またいつでも来られるよ」
「うふふ。でもこうして記念日に来た方が感慨深いかも」
「じゃあ記念日をたくさん作ればいい」
「なるほど。それも一理あるわね」

 高臣と過ごした一年は、初めての経験ばかりだった。嫌いだと思っていた人が、誰よりも大切な存在になったし、頑張り過ぎた時に甘えさせてくれる人がいること、そして『愛してる』と囁かれることの幸せ。何もかもが初めてで、杏奈に自信をくれた。

 だから素直に彼の愛情に応えられるようになったんだと思う。

 ただ彼に『好き』と言えるのに、『愛してる』だけは照れくさくてまだ言えていなかった。

 ずいぶんと待ってくれてるし、そろそろ言えたらいいんだけど--そう思って高臣の顔を見つめてみるが、やはり恥ずかしくて俯いてしまう。

「そうだ、杏奈にお土産があるんだ」
「お土産?」

 高臣は頷くと、杏奈の手を引いて部屋のソファに座らせた。

 つい最近までフランスに出張で行っていたので、その時買ったものを指しているのだと思った。

 高臣はクローゼットの中から文庫本くらいの大きさの箱を持ってくると、杏奈に差し出す。

「あっ、お土産ってもしかしてチョコレート?」
「そう。杏奈チョコレート好きだったよね」
「チョコレートは昔から大好きなの。開けてもいい?」」
「どうぞ」

 高臣の許可が出たので、杏奈はリボンを解き、箱をそっと開けてみた。
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